1. はじめに
こんにちは。血液内科で看護師をしているエリです。ホジキンリンパ腫と診断され、これからどんな治療が始まるのか、ご自身の体はどうなっていくのか、大きな不安の中にいらっしゃることと思います。ご家族の皆さんも、心配なお気持ちで支えていらっしゃいますよね。
(今回の解説は、日本の血液内科の先生方が作成された 造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版) の ホジキンリンパ腫 の部分を参考にしています)
『造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版』(2024年版) 【編集:日本血液学会】
ホジキンリンパ腫は、数あるリンパ腫の中でも少し特徴的なタイプですが、良いニュースとしては、治療がとてもよく効きやすく、多くの方が治癒、つまり完全に治ることを目指せる病気なんです。今日は、そのホジキンリンパ腫について、どんな種類があって、どのように治療を進めていくのか、最新のガイドラインの内容をもとに、できるだけ分かりやすくお伝えしたいと思います。皆さんが病気を理解し、希望を持って治療に臨むためのお手伝いができれば嬉しいです。
2. ホジキンリンパ腫(HL)ってどんな病気? ~特徴的な細胞が見つかるリンパ腫~
まず、ホジキンリンパ腫は、リンパ球という血液細胞のがん(悪性リンパ腫)の一種です。
特徴的な細胞
顕微鏡でリンパ節などの組織を調べると、リード・シュテルンベルグ(RS)細胞やポップコーン細胞といった、この病気に特徴的な、ちょっと変わった顔つきの大きな細胞が見つかるのが最大の特徴です。
発症年齢
若い方(20代)と、少し上の年代の方(50~60代)に発症のピークがある、二峰性(にほうせい)と呼ばれる年齢分布を示します。
症状
多くの場合、痛みがない首や脇の下、鎖骨の上などのリンパ節の腫れで気づかれます。発熱、寝汗、体重減少といった全身症状(B症状と呼ばれます)を伴うこともあります。
2つのタイプ
ホジキンリンパ腫は、大きく分けて2つのタイプがあります。
- 古典的ホジキンリンパ腫(CHL): 全体の95%以上を占める、一般的なタイプです。さらに細かい4つのタイプに分かれます。
- 結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫(NLPHL): 全体の5%未満と、まれなタイプです。古典的ホジキンリンパ腫とは少し性質が異なります。
3. 治療方針を決めるポイント:タイプ・病期・予後因子
ホジキンリンパ腫の治療法を決めるには、いくつかのポイントがあります。
- タイプ: まず、古典的ホジキンリンパ腫(CHL)なのか、結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫(NLPHL)なのかで、治療の基本的な考え方が異なります。
- 病期(ステージ): 病気が体のどの範囲まで広がっているか(Ann Arbor分類でⅠ期からⅣ期に分けます)が重要です。病期によって治療の強さや内容が変わります。
- 予後因子: 同じ病期でも、治療の効きやすさや再発しやすさに関わるいくつかの因子(予後因子)があります。CHLの限局期(Ⅰ・Ⅱ期)では、大きな腫瘤(Bulky病変)があるか、B症状があるか、血液検査(血沈など)の値はどうか、などで予後良好群と予後不良群に分けられます。進行期(Ⅲ・Ⅳ期)では、IPS(国際予後スコア)という指標も参考にします。
これらの情報を総合的に判断して、一人ひとりに合った最適な治療計画を立てていきます。
4.【古典的ホジキンリンパ腫(CHL)の治療】 ~治癒を目指して~
CHLは、ホジキンリンパ腫の大部分を占めるタイプで、治療の目標は治癒(完全に治すこと)です。
基本となる治療
現在の標準治療は、化学療法(抗がん剤治療)が中心です。ABVD(エービーブイディー)療法 という、4種類のお薬(ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン)を組み合わせた治療法が、長年、世界中で標準的に使われています。多くの場合、化学療法の後に、病気があった場所に放射線治療(現在はできるだけ範囲を絞ったISRTという方法が推奨されます)を追加する 併用療法(CMT) が行われます。
限局期(病気が限られている場合)の治療 (CQ1-4)
- 予後が良いと考えられる場合(予後良好群): ABVD療法を2コース行い、その後、病気があった場所に弱い放射線治療(ISRT 20Gy)を行うのが、効果と副作用のバランスが良い治療法として推奨されています。(CQ3)
- 予後が少し心配な場合(予後不良群): ABVD療法を4コース行い、その後、病気があった場所に放射線治療(ISRT 30Gy)を行うのが推奨されます。(CQ4)
- 放射線を避けたい場合: 大きな腫瘤(Bulky病変)がなければ、放射線治療による将来的な影響(晩期毒性)を避けるために、放射線を行わず、ABVD療法を6コース行うという選択肢もあります。(CQ2)
進行期(病気が広がっている場合)の治療 (CQ6, 7)
ABVD療法を6回または8回行うのが標準治療です。または、新しいお薬である ブレンツキシマブ ベドチン(BV、商品名アドセトリス)をABVD療法のお薬の一部(ブレオマイシン以外)と組み合わせる BV併用AVD療法 を6回行うのも、特に病気の勢いが強いと考えられる場合に、より効果が期待できる新しい標準治療として推奨されています。
PET検査による治療調整(層別化治療)って? (CQ8)
- 最近では、治療の早い段階(多くはABVD療法2コース終了後)でPET検査を行い、治療がどれくらい効いているかを確認して、その後の治療内容を調整する方法(PETによる層別化治療)が積極的に行われています。
- PETで効果が十分な場合(陰性): 治療がよく効いている証拠なので、治療を少し弱めたり(例えば、ABVD療法から肺に影響が出やすいブレオマイシンを除いたAVD療法に変更したり)、放射線治療を省略したりできる可能性があります。副作用を減らすことにつながりますね。
- PETで効果が不十分な場合(陽性): 少し治療が効きにくい可能性があるため、より強力な化学療法(増量BEACOPP療法など)に変更することで、治療効果を高めることが期待できます。 この方法は、特に限局期予後不良群や進行期の患者さんにとって、より個別化された効果的な治療を行うための有力な選択肢となっています。
治療後の放射線治療について (CQ9)
進行期で化学療法が終わった後、PET検査でがん細胞が活動していない状態(完全代謝寛解:CMR)と判断された場合は、追加の放射線治療は通常必要ないとされています。
5.【結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫(NLPHL)の治療】 (CQ5)
NLPHLはCHLとは少し異なり、まれなタイプで、多くの場合、進行がさらにゆっくりです。
経過観察: まれに、ごく初期の状態でリンパ節が手術で完全に取り切れた場合や、病気の勢いが非常に弱いと考えられる場合には、すぐに治療をせずに経過観察をすることもあります。
限局期の場合: 病気が限られた範囲にある場合は、その場所に放射線治療(ISRT)を行うだけで、多くの場合、長期的に良好な状態を保つことができます。これが標準的な治療法です。
6. もし再発・難治性になったら…? ~移植や新しいお薬も~ (CQ10-13)
ホジキンリンパ腫は治癒率が高い病気ですが、残念ながら再発したり、最初の治療が効きにくかったりすることもあります。でも、そうなった場合にも、治療の選択肢はいくつもあります。
救援化学療法
まずは、最初に使ったお薬とは違う種類の化学療法(救援化学療法と言います。ICE療法やGDP療法などがあります)を行います。
自家移植 (CQ11)
若い方(多くは65歳未満)で、救援化学療法で効果が見られた場合には、治癒を目指して、ご自身の血液細胞を使った強力な治療である 自家造血幹細胞移植(自家移植) を行うことが標準的な治療法とされています。移植後に再発するリスクが高いと考えられる場合には、移植後にブレンツキシマブ ベドチン(BV)で地固め療法を行うこともあります。
新しいお薬 (CQ10, 12)
再発・難治性のホジキンリンパ腫に対して、ここ数年で非常に効果的な新しいお薬が登場しました。
- ブレンツキシマブ ベドチン(BV、アドセトリス): CD30という目印を狙うお薬です。
- 抗PD-1抗体(免疫チェックポイント阻害薬): ニボルマブ(製品名:オプジーボ)やペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ)といったお薬で、自分の免疫細胞ががん細胞を攻撃する力を高めます。 これらのお薬は、救援化学療法として、あるいは自家移植の前後に使われることがあります。
同種移植 (CQ13)
自家移植の後に再発してしまった場合など、さらに治療が必要な状況では、健康なドナーさんからの移植である 同種造血幹細胞移植(同種移植) も治療選択肢の一つとなりえます。ただし、体への負担が非常に大きくリスクも高いため、適応は慎重に判断されます。
7. 治療の副作用について
ホジキンリンパ腫の治療にも、副作用は伴います。
ABVD療法
骨髄抑制(感染しやすさ、貧血、出血しやすさ)、吐き気、脱毛、だるさなどが一般的です。特に ブレオマイシン というお薬は、まれに肺に影響(肺臓炎)を起こすことがあるため、注意が必要です。
ブレンツキシマブ ベドチン(BV)
手足のしびれ(末梢神経障害) が比較的起こりやすい副作用です。
抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)
免疫が働きすぎることで起こる副作用(免疫関連有害事象)に注意が必要です。甲状腺機能の異常、肺炎、大腸炎、皮膚のトラブルなどが起こることがあります。
放射線治療
治療中や直後は、だるさや照射部位の皮膚炎などが起こることがあります。長期的な影響としては、二次がん(放射線をあてた場所に新たながんができること)や心臓・血管系の病気のリスクが指摘されていますが、最近は照射する範囲をできるだけ狭くする工夫(ISRT)が進んでいます。
移植治療
強力な治療なので、強い骨髄抑制による感染症や、口内炎などの粘膜障害などが起こりやすいです。同種移植ではGVHDにも注意が必要です。
治療中は、これらの副作用をできるだけ予防し、症状を和らげるためのケアを行います。特に感染症対策は重要です。辛い症状や心配なことがあれば、我慢せずにいつでも私たち看護師や医師に伝えてくださいね。
8. まとめ(看護師からのメッセージ)
ホジキンリンパ腫は、リンパ腫の中でも治癒を目指せる可能性が非常に高い病気です。診断を受けて不安でいっぱいだと思いますが、まずはこのことを知って、希望を持っていただきたいと思います。
治療法は、病気のタイプ(CHLかNLPHLか)、広がり(病期)、そして予後に関わる因子を考慮して、一人ひとりに合わせて細やかに決められていきます。ABVD療法が基本ですが、ブレンツキシマブ ベドチンを使った新しい治療法や、PET検査の結果を見て治療を調整する方法など、より効果的で、かつ体への負担を減らすための工夫も進んでいます。
もし再発してしまった場合でも、自家移植や、ブレンツキシマブ ベドチン、抗PD-1抗体といった有効な治療選択肢があります。
治療は決して簡単なものではありませんが、多くの患者さんが乗り越えて元気に過ごされています。
分からないこと、不安なこと、治療中の辛いことなど、どんなことでも私たち看護師や医師に相談してください。皆さんが安心して治療を受け、病気を克服できるよう、チーム一丸となってサポートしていきます。
9. 注意事項
この記事は、診療ガイドラインの情報を分かりやすくお伝えするために作成しました。
医学的なアドバイスをするものではありませんし、特定の治療法をお勧めするものでもありません。治療に関する最終的な決定は、必ず担当の医師とよくご相談の上でなさってくださいね!






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