1. はじめに
こんにちは。血液内科で看護師をしているエリです。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)と診断され、治療を頑張っていらっしゃる皆さん、そして温かく支えていらっしゃるご家族の皆さん、いつも本当にお疲れ様です。
今回の解説は、京都を中心とした病院グループ 京都血液臨床研究グループ(KOTOSG) が、15年間にわたって実際の診療現場でDLBCLの患者さんの治療データを集め、分析してきた研究成果と、そこから見えてきた今後の課題についてまとめた論文を参考にしています。
出典:河田英里 他. 京都血液臨床研究グループ(KOTOSG)による15年間の臨床研究に基づく びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の診療課題と展望. 臨床血液 66(3): 153-164, 2025.
DLBCLの治療は、R-CHOP療法という基本の治療法が登場してから大きく進歩し、多くの方が治癒を目指せるようになりました。でも、残念ながら全ての方が同じように良い経過をたどるわけではなく、まだまだ解決すべき課題も残っています。今日は、実際の診療現場(リアルワールド)のデータに基づいた研究が、DLBCL治療の現状をどのように映し出し、未来のより良い治療にどう繋がっていくのか、KOTOSGの研究成果を通して皆さんと一緒に見ていきたいと思います。
2. DLBCL治療の「リアル」を知る大切さ ~KOTOSGの研究紹介~
新しいお薬や治療法の開発は、まず「治験」という特別な条件下で行われることが多いですよね。
でも、実際に病院で治療を受ける患者さんは、治験に参加する方よりも年齢が高かったり、他の病気(合併症)を持っていたり、体の状態も様々です。だから、新しい治療法が実際の診療現場で本当にどれくらいの効果があるのか、どんな副作用が出るのか、どんな患者さんには効きにくいのか、といった「リアル」な情報を知ることが、治療をさらに良くしていくためにはとても大切なんです。
KOTOSGは、京都府立医科大学を中心に、京都・滋賀・大阪の複数の病院が協力して、2010年から実際の患者さんのデータを集めて分析する「リアルワールド研究」を続けてきました。特にDLBCLは患者さんの数が最も多いリンパ腫なので、たくさんのデータが集まり、色々なことが分かってきたんですよ。
3. KOTOSGが見つけたDLBCL診療の課題と発見ポイント
15年間の研究から、KOTOSGはDLBCL診療におけるいくつかの大切な発見や、これから解決すべき課題を見つけてきました。
ポイント①:今の予後予測だけでは不十分?「超高リスク」を見つける新指標「KPI」
DLBCLの治療を始める前、病気の進行度や体の状態などから、治療が効きやすいか、再発しやすいかなどを予測する指標(IPI、R-IPI、NCCN-IPIなど)があります。でも、R-CHOP療法が標準になってから、これらの指標で「高リスク」と判定された方の中にも、治療がすごくよく効いて治る方と、残念ながらすぐに悪くなってしまう方が混在していることが分かってきました。
つまり、本当に治療が効きにくい「超高リスク」の方を、治療開始前に見分けるのが難しかったんです。 そこでKOTOSGは、血液検査のLDHの値、体の元気さ(PS)、アルブミン値、特定の場所への病気の広がり(骨髄、骨、皮膚、肺/胸膜)といった情報から計算する、Kyoto Prognostic Index、略して KPI という新しい指標を開発しました。このKPIを使うと、R-CHOP療法が効きにくい可能性が非常に高い患者さんを、これまでの指標よりも精度良く見つけ出せるかもしれない、という結果が出ています。
ポイント②:骨髄への広がり、どう診るのがベスト?
骨髄(骨の中の血液を作る場所)にリンパ腫細胞が広がっているか(骨髄浸潤)を調べることは、病気の進行度を知る上で重要です。調べる方法には、骨に針を刺して組織を取る「骨髄生検」や、吸引した骨髄液を顕微鏡で見たり、特殊な機械(フローサイトメトリー)で分析したりする方法があります。
KOTOSGの研究では、これらの検査結果が必ずしも一致しないことがある、ということが分かりました。特に予後との関連でみると、骨髄生検とフローサイトメトリーの両方で異常が見つかった場合に、最も注意が必要なようです。どの検査方法がベストなのか、あるいはPET-CT検査で代用できないか、などは今後の研究課題ですね。
ポイント③:高齢者の治療、筋肉量も関係?
DLBCLと診断される患者さんの年齢は、年々高くなる傾向にあります。KOTOSGの研究でも、75歳以上の患者さんでは、体の筋肉量が少ない状態(サルコペニア)であることも、治療の経過に関係する可能性が示唆されました。ご高齢の方の治療を考える際には、年齢だけでなく、筋肉量や栄養状態なども含めた、体全体の元気さをしっかり評価することが大切になってきますね。
ポイント④:予後が厳しい場合の治療法は?
もしKPIで「高リスク」と判定された場合、標準のR-CHOP療法よりも強力な治療法(例えばDA-EPOCH-R療法など)を行うことで、予後を改善できる可能性があるかもしれません。KOTOSGの施設での経験では、そのような傾向が見られましたが、まだ患者さんの数が少なく、今後の前向きな研究で確かめていく必要があります。また、最近新しい標準治療として登場した Pola-R-CHP療法 が、このKPI高リスクの方々にどれくらい効果があるのかも、これから注目していくポイントです。
ポイント⑤:治療が終わった後も安心できない?「二次がん」のリスク
これはとても大切なことですが、DLBCLの治療が無事に終わって元気になった後でも、別のがん(二次がん、または二次性悪性腫瘍 SPM と言います)を発症するリスクが、一般の方より少し高いことが分かりました。KOTOSGの調査では、10年間で約4人に1人の方が何らかの二次がんを発症していました。特に胃がん、肺がん、大腸がんなどが多かったようです。ですから、治療が終わった後も、定期的な健康診断やがん検診をきちんと受けて、長期的にご自身の健康を見守っていくことが非常に重要です。
ポイント⑥:抗がん剤治療後のワクチン効果
新型コロナウイルスの流行を経験して分かったことですが、R-CHOP療法などで使われるリツキシマブ(B細胞というリンパ球を減らすお薬です)の治療を受けた後は、しばらくの間(約1年くらい)、ワクチンを接種しても十分に抗体ができにくい可能性があります。感染症対策には、ワクチン以外の方法も含めて注意が必要ですね。
4. 今後の展望 ~より良い治療を目指して~
KOTOSGの研究で見えてきたこれらの課題を踏まえて、これからのDLBCL治療をさらに良くしていくために、以下のような研究が期待されています。
- KPIで高リスクと判定された患者さんに対する、最適な強化療法や新しい免疫療法(CAR-T細胞療法など)の開発。
- 高齢者や体の状態に応じた、より個別化された治療法の確立。
- 骨髄浸潤をより正確に、かつ負担なく診断できる方法の開発。
- なぜ二次がんが起こりやすいのか、その原因を探る研究。
- リンパ腫細胞の遺伝子レベルでの特徴(CDKN2A/2B遺伝子の異常など)を解明し、それを標的とした新しい治療薬の開発。
KOTOSGでは、患者さんから提供いただいた貴重なデータや検体をもとに、これらの課題に取り組むための基礎研究や臨床研究を進めています。
5. 副作用/注意点について
今回の論文は、KOTOSGの研究成果をまとめたもので、特定の治療法の副作用について詳しく述べたものではありません。しかし、DLBCLの治療(R-CHOP療法、DA-EPOCH-R療法、Pola-R-CHP療法など)では、一般的に骨髄抑制(感染症にかかりやすくなる、貧血、血小板が減る)、吐き気、脱毛、倦怠感、末梢神経障害(しびれ)、心臓への影響などの副作用が起こる可能性があります。また、治療後の二次がんのリスクや、抗CD20抗体治療後のワクチン効果の低下といった点にも注意が必要です。
治療を受ける際には、担当の先生や私たち看護師から、予想される副作用とその対策についてしっかり説明がありますので、ご安心くださいね!
6. まとめ(看護師からのメッセージ)
KOTOSGのような、地域の病院が協力して実際の患者さんのデータを集め、分析していく地道な研究(リアルワールド研究)は、DLBCL治療の「今」を知り、これから解決すべき課題を見つけ出し、未来のより良い治療法を開発していく上で、なくてはならない、とても大切な活動です。
皆さんが日々の診療の中で提供してくださる一つ一つの情報が、未来の患者さんのための大きな力になっています。本当にありがとうございます。
DLBCLの予後予測の方法や治療法は、今もどんどん進歩しています。KPIのような新しい指標や、Pola-R-CHP療法、CAR-T療法といった新しい治療法も登場しています。だからこそ、ご自身の病気や治療について、最新の情報に関心を持ちながらも、一番身近で皆さんのことをよく知っている主治医の先生と、何でも話し合える関係を築くことが、何よりも大切だと私は思います。
分からないこと、不安なことがあれば、いつでも私たち看護師にも気軽に声をかけてくださいね。皆さんがより快適に、安心して治療を続けられるよう、サポートさせていただければ嬉しいです!
7. 注意事項
この記事は、最新の医療論文情報を分かりやすくお伝えするために作成しました。
医学的なアドバイスをするものではありませんし、特定の治療法をお勧めするものでもありません。治療に関する最終的な決定は、必ず担当の医師とよくご相談の上でなさってくださいね!









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