1. はじめに
こんにちは。血液内科で看護師をしているエリです。バーキットリンパ腫(BL)や高悪性度B細胞リンパ腫(HGBL)という診断を受け、病気の進行が早いと聞いて、大きな衝撃と不安を感じていらっしゃることと思います。ご家族の皆さんも、とても心配な気持ちでいらっしゃいますよね。
(今回の解説は、日本の血液内科の先生方が作成された 造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版) の びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 の部分を参考にしています)
出典:日本血液学会 編 造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版)【編集:日本血液学会】
確かにこれらのリンパ腫は、進行が非常に早く、すぐに治療を始める必要がある、緊急性の高い病気です。でも、だからこそ、強力な治療が効果を発揮しやすく、治癒、つまり完全に治すことを目指せる病気でもあるんです。今日は、このBLとHGBLについて、どんな病気で、どのように治療を進めていくのか、最新のガイドラインの内容をもとに、できるだけ分かりやすくお伝えしたいと思います。皆さんの不安が少しでも和らぎ、前向きに治療に臨むためのお手伝いができれば嬉しいです。
2. バーキットリンパ腫(BL)ってどんな病気? ~とても進行が早いタイプ~
バーキットリンパ腫は、B細胞というリンパ球ががん化したもので、悪性リンパ腫の中でも特に増殖するスピードが非常に早い、超アグレッシブなタイプです。
特徴
細胞がものすごい勢いで増えるため、短期間でリンパ節が腫れたり、骨髄(血液を作る場所)や中枢神経系(脳や脊髄)など、リンパ節以外の場所にも広がったりしやすいのが特徴です。お子さんや若い世代(AYA世代と言います)に多い病気ですが、大人の方でも発症します。
診断
診断のためには、リンパ腫の細胞の顔つき(顕微鏡で見て星空のように見えることがあります)や、細胞表面の目印(CD10陽性、Bcl-2陰性など)、そして細胞が増える勢い(Ki-67というマーカーがほぼ100%近い値になります)を調べます。また、ほぼ全ての患者さんでMYC(ミック)という遺伝子に特徴的な異常(転座)が見られます。
緊急性
とにかく進行が早いので、診断がついたら、あるいは強く疑われたら、一刻も早く治療を開始することがとても重要になります。
3. 高悪性度B細胞リンパ腫(HGBL)とは? ~バーキットとDLBCLの中間?~
高悪性度B細胞リンパ腫(HGBL)は、バーキットリンパ腫と、最も多いタイプのびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の中間のような性質を持つ、やはり進行の早いアグレッシブなリンパ腫のグループです。
- ダブルヒットリンパ腫(DHL): HGBLの中でも特に注意が必要なのが、MYCという遺伝子と、BCL2またはBCL6という遺伝子の両方に異常(転座)があるタイプで、ダブルヒットリンパ腫(DHL)と呼ばれます。これは一般的に治療が効きにくく、予後が厳しいタイプとされています。
- その他: ダブルヒットリンパ腫以外にも、細胞の形などがBLとDLBCLの中間的な特徴を示すものがHGBLに含まれます。
HGBLもBLと同様に、迅速な診断と治療開始が大切になります。
4. 治療の基本方針:強力な化学療法で治癒を目指す (CQ1, CQ6)
BLもHGBLも、病気の進行スピードが非常に速いため、通常のDLBCLに使われるR-CHOP療法では、病気の勢いを抑えきれないことが多いです。
そのため、これらの病気の治療では、短期間にたくさんの種類の抗がん剤を組み合わせた、より強力な化学療法(治療強度を高めたレジメンと言います)を行うことが標準的な考え方になっています。
- 代表的な治療法: いくつか種類がありますが、DA-EPOCH-R療法、CODOX-M/IVAC療法にリツキシマブ(R)を加えたもの、R-hyper-CVAD/MA療法などが代表的です。これらの治療法の間で、どれが一番優れているかという結論はまだ出ていません。
- リツキシマブの併用: どの治療法でも、がん細胞の目印(CD20)を狙うリツキシマブ(R)というお薬を併用するのが一般的です。
- 治療の目標: 目標は、短期集中で一気にリンパ腫細胞を叩き、治癒を目指すことです。大変な治療になりますが、効果が出れば完全に治る可能性が高い病気でもあります。
HGBLの場合も、基本的にはBLに準じた強力な化学療法が勧められますが、患者さんの年齢や体の状態によっては、副作用が強く出すぎる可能性もあるため、治療の強さを調整することもあります。
5.治療で特に注意が必要なこと①:腫瘍崩壊症候群(TLS)(CQ2)
BLやHGBLのように、がん細胞が急速に増殖し、治療によって一気に壊れる可能性がある病気では、腫瘍崩壊症候群(TLS)という合併症に特に注意が必要です。
- 予防と対策: このTLSを防ぐために、治療を始める前から、たくさんの点滴を行って尿量を確保し、血液中の尿酸値を下げるお薬(ラスブリカーゼという特効薬があります)をしっかり使うことが非常に重要です。私たちは、皆さんの血液検査の値をこまめにチェックし、細心の注意を払って対応します。
- TLSとは?: がん細胞が急にたくさん壊れると、細胞の中身(カリウム、リン、尿酸など)が血液中に一気に放出され、血液のバランスが崩れたり、腎臓に大きな負担がかかって急性腎不全になったりすることがあります。
BLやHGBLのように、がん細胞が急速に増殖し、治療によって一気に壊れる可能性がある病気では、腫瘍崩壊症候群(TLS)という合併症に特に注意が必要です。
- TLSとは?: がん細胞が急にたくさん壊れると、細胞の中身(カリウム、リン、尿酸など)が血液中に一気に放出され、血液のバランスが崩れたり、腎臓に大きな負担がかかって急性腎不全になったりすることがあります。
- 予防と対策: このTLSを防ぐために、治療を始める前から、たくさんの点滴を行って尿量を確保し、血液中の尿酸値を下げるお薬(ラスブリカーゼという特効薬があります)をしっかり使うことが非常に重要です。私たちは、皆さんの血液検査の値をこまめにチェックし、細心の注意を払って対応します。
6. 治療で特に注意が必要なこと②:中枢神経系(脳・脊髄)への影響 (CQ3)
BLやHGBLは、脳や脊髄といった中枢神経系に入り込みやすい(浸潤しやすい)性質を持っています。
予防: 浸潤が見つからなかった場合でも、再発を予防するために、ほとんどの場合、治療中に何度か髄注(背中から直接抗がん剤を入れる治療)を行ったり、大量MTX療法を組み込んだりします。DA-EPOCH-R療法のようにレジメン自体に大量MTXが含まれない場合は、予防的な髄注の回数を多くするなどの工夫が必要です。
検査と治療: 治療を始める前には、髄液検査(背中から針を刺して脳や脊髄の周りを流れる液を調べる検査です)を行って、リンパ腫細胞がいないかを確認します。もし浸潤が見つかった場合には、脳や脊髄にもお薬が届きやすいように、メトトレキサート(MTX)というお薬を大量に点滴する治療法などを選びます。
7. 治療が終わった後のこと ~再発は早期に多い~ (CQ4)
- 心臓が心配な方: R-CHOP療法に含まれるドキソルビシン(H)という赤い色の抗がん剤は、心臓に負担をかけることがあります。元々心臓に持病がある方や、ご高齢の方などでは、ドキソルビシンの量を減らしたり、投与時間を長くしたり、場合によっては心臓への負担が少ない別のお薬(リポソーマルドキソルビシンなど)に変えたりすることを検討します。
- ご高齢の方: 80歳未満で全身状態が良ければ、若い方と同じようにR-CHOP療法やPola-R-CHP療法による治癒を目指した治療が可能です。80歳以上の方でも、多くの場合、お薬の量や回数を少し調整したR-CHOP療法(R-miniCHOPなど)で安全に治療を行うことができます。年齢だけで治療を諦める必要はありません。体の状態をしっかり評価(CGAという詳しい評価方法もあります)して、その方に合った最善の治療を考えていきます。
8. もし再発・難治性になったら…? (CQ5, CQ6)
残念ながら、最初の治療が効きにくかったり(難治性)、再発してしまったりした場合、治療は非常に難しくなります。
- 救援化学療法: まずは、最初に使ったお薬とは違う種類の抗がん剤を組み合わせた救援化学療法を試みます。R-ICE療法などが使われることがあります。
- 移植治療: もし救援化学療法で効果が得られ、かつ患者さんの状態が許せば、治癒を目指して移植治療(自家移植または同種移植)を検討します。特に、救援化学療法で完全寛解が得られた場合の自家移植は、有効な選択肢となりえます。同種移植は、より強力ですがリスクも高く、適応は慎重に判断されます。
- CAR-T細胞療法: HGBL(特にダブルヒットリンパ腫など)が再発・難治性になった場合には、CAR-T細胞療法も治療選択肢の一つとして考えられます。(現在のところ、BLに対するCAR-T療法の有効性はまだ研究段階です)
再発・難治性の場合、標準的な治療法が確立されていない部分も多いため、新しい治療法の臨床試験(治験)に参加することも重要な選択肢となります。
9. 治療の副作用について
BLやHGBLの治療は強力なものが中心となるため、副作用も強く出やすい傾向があります。
- 骨髄抑制: ほとんどの治療で、白血球、赤血球、血小板が大きく減少します。感染症(発熱、肺炎など)や貧血、出血に最大限の注意が必要です。予防的な抗菌薬や白血球を増やす注射なども使います。
- 消化器症状: 強い吐き気や口内炎、下痢なども起こりやすいです。吐き気止めのお薬や、うがい、食事の工夫などで対応します。
- 脱毛: ほとんどの場合、髪の毛は抜けてしまいますが、治療が終わればまた生えてきます。
- 腫瘍崩壊症候群(TLS): 先ほどお話ししたように、最も注意すべき合併症の一つです。
- 中枢神経系への影響: 大量MTX療法などでは、一時的な脳機能への影響が出ることもあります。
治療中は これらの副作用をできるだけ予防し、症状が出た場合には速やかに対応できるよう、私たち医療チームが24時間体制でサポートします。栄養管理や精神的なケアも含め、トータルで支えていきますので安心してくださいね!
10. まとめ(看護師からのメッセージ)
バーキットリンパ腫(BL)や高悪性度B細胞リンパ腫(HGBL)は、進行が非常に早く、診断された時の衝撃や不安は計り知れないものだと思います。治療も強力で、体力的にも精神的にも大変な道のりになることが多いです。
でも、どうか希望を忘れないでください。これらの病気は、強力な化学療法が非常に効きやすく、完全に治癒することも十分に可能な病気なのです。だからこそ、迅速な診断と、大変ではありますが、強い治療に立ち向かっていくことが大切になります。
治療中は 腫瘍崩壊症候群や感染症など、注意すべき点もたくさんありますが、私たち医療チームが細心の注意を払い、皆さんの安全を守りながら治療を進めていきます。不安なこと、辛いこと、分からないことは、どんな小さなことでも、私たち看護師や医師に遠慮なく伝えてください。皆さんが安心して治療に専念できるよう、全力でサポートします。
11. 注意事項
この記事は、診療ガイドラインの情報を分かりやすくお伝えするために作成しました。
医学的なアドバイスをするものではありませんし、特定の治療法をお勧めするものでもありません。治療に関する最終的な決定は、必ず担当の医師とよくご相談の上でなさってくださいね!








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