血液がん

【論文解説】WM への ザヌブルチニブの効果を検討する。イブルチニブとのBTK阻害薬の比較結果|看護師エリ解説

1. はじめに

こんにちは。血液内科で看護師をしているエリです。
ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(WM)と診断され、治療を受けていらっしゃる皆さん、日々の体調管理や通院、本当にお疲れさまです。WMはゆっくり進行することが多い病気ですが、貧血や倦怠感などの症状と付き合いながらの生活は、決して楽なことばかりではないと思います。

近年、WMの治療は「BTK阻害薬」という新しいタイプのお薬の登場で大きく変わりました。今日は、そのBTK阻害薬の中でも、「ザヌブルチニブ」と「イブルチニブ」という2つのお薬を直接比較した、とても重要な臨床試験の結果について、医学雑誌「Blood」に掲載された論文をもとに、皆さんに分かりやすくお伝えしたいと思います。

出典: Tam CS, et al. A randomized phase 3 trial of zanubrutinib vs ibrutinib in symptomatic Waldenström macroglobulinemia: the ASPEN study. Blood. 2020 Oct 22;136(18):2038-2050.

以前は ザヌブルチニブ(ブルキンザ)の初発CLL/SLLに対する効果を解説しましたが、 今回はブルキンザをWMに使用した際のデータに焦点を当てて、その実力と安全性について、さらに詳しく見ていきましょう。

この研究は、WM治療の選択肢について考える上で、とても参考になる情報ですので、ぜひ一緒に見ていきましょう。

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今回注目されているのは、「ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(WM)」という、血液のがんの一種です。これは悪性リンパ腫の中でも、B細胞というリンパ球ががん化し、「IgM」という種類のタンパク質(マクログロブリン)を異常にたくさん作ってしまう病気です。ゆっくり進行することが多いですが、貧血、疲れやすさ、出血しやすい、血液がドロドロになる(過粘稠度症候群)、神経の症状など、様々な症状を引き起こすことがあります。多くの患者さんで、「MYD88」という遺伝子に特定の変異が見られます。

このWMの治療に、現在重要な役割を果たしているのが「BTK阻害薬」です。BTK(ブルトン型チロシンキナーゼ)は、がん細胞(B細胞)が増えたり生き残ったりするのに必要な信号を送る、いわば “スイッチ” のようなものです。BTK阻害薬は、このスイッチをオフにすることで、がん細胞の増殖を抑える働きをします。

この研究で比較されたのは、以下の2つのBTK阻害薬です。

最初に登場した第一世代のBTK阻害薬で、WM治療の標準的なお薬の一つとして広く使われています。

イブルチニブの後に開発された第二世代のBTK阻害薬です。BTKのスイッチをより選択的に(ピンポイントで)オフにするように設計されており、他の似たようなスイッチ(オフターゲット)への影響が少ないことが期待されています。

これらのお薬は、どちらも飲み薬で、日本でもワルデンシュトレームマクログロブリン血症の治療薬として承認されています。

イブルチニブはWMの治療に革命をもたらしましたが、一方で、心房細動(不整脈の一種)や出血、下痢などの副作用が課題となることもありました。これらの副作用の中には、イブルチニブがBTK以外のスイッチにも影響を与えてしまう(オフターゲット効果)ことが原因の一つと考えられていました。

そこで、よりBTKだけを狙い撃ちするように作られたザヌブルチニブが登場し、「イブルチニブと同じくらいよく効いて、しかも副作用は少ないのではないか?」という期待が持たれました。 このASPEN試験は、その期待を確かめるために、WMの患者さんを対象に、ザヌブルチニブとイブルチニブの効果と安全性を直接比較した初めての大規模な臨床試験(第Ⅲ相試験)です。どちらのお薬が患者さんにとってより良い選択肢となり得るのかを明らかにしようとした、とても重要な研究なのです。

約1年半(中央値19.4ヶ月)の追跡期間の結果、以下の点が明らかになりました。

まず大切なこととして、ザヌブルチニブもイブルチニブも、WMに対して非常に高い効果を示すことが改めて確認されました。どちらの薬でも、治療を受けた患者さんの約8割でがんが小さくなる効果(奏効率)が見られ、病気が進行せずに安定している期間も長く保たれていました。1年半経った時点でも、8割以上の患者さんが病気の進行なく過ごせていたのです。

治療効果の深さ(どれだけがん細胞を減らせたか)を見ると、検査上ほとんどがんが見えなくなる「完全寛解(CR)」を達成した患者さんはいませんでしたが、それに次ぐ深い効果である「非常によく効いた部分寛解(VGPR)」を達成した割合は、ザヌブルチニブの方がイブルチニブよりも高い傾向にありました(28% vs 19%)。これは統計的にはっきりとした差ではありませんでしたが、ザヌブルチニブの方がより深く効く可能性があることを示唆しています。また、WMの特徴であるIgMタンパク質の量も、ザヌブルチニブの方がより大きく、より持続的に減少しました。

副作用全体を見てみると、ザヌブルチニブの方がイブルチニブよりも副作用が原因で治療を中止した患者さんが少なかったです(4% vs 9%)。 特に、イブルチニブで心配されていた副作用について、以下のような違いが見られました。

  • その他の副作用も少ない傾向: 下痢、あざができやすい、筋肉のけいれん、むくみ、肺炎なども、ザヌブルチニブの方が少ない傾向にありました。
  • 心房細動(不整脈):ザヌブルチニブの方が明らかに少ない! イブルチニブでは15%の患者さんで見られましたが、ザヌブルチニブではわずか2%でした。心臓への負担が気になる方には朗報ですね。

一方で、血液中の好中球(感染と戦う白血球の一種)が減る副作用は、ザヌブルチニブの方がイブルチニブよりも多く見られました(全グレードで29% vs 13%)。ただし、これによって重い感染症にかかる頻度がザヌブルチニブで増えたわけではなく、両方のグループで同程度でした。

まとめると、有効性についてはどちらも非常に高い効果を示しましたが、ザヌブルチニブの方がより深く効く可能性があり、そして何より、特に心臓への影響を含む多くの副作用が少ない、という嬉しい特徴があることが分かりました。

ASPEN試験の結果から、ザヌブルチニブとイブルチニブで注意すべき副作用のポイントが少し異なることが分かりました。

  • 好中球減少: 感染症にかかりやすくなる可能性があるため、手洗いやうがいなどの感染予防が大切です。治療中は定期的に血液検査を行い、必要であれば白血球を増やすお薬を使うこともあります。発熱など感染症が疑われる症状が出たら、すぐに医療機関に連絡してください。

  • 好中球減少: ザヌブルチニブより頻度が高く(約57%、Grade3以上も約51%)、発熱性好中球減少症のリスクも高まります。
  • 吐き気、嘔吐、便秘: 消化器症状が比較的多く見られます。
  • 皮疹、発熱、疲労感 など。
  • 二次がんのリスク: 化学療法であるベンダムスチンは、長期的に見て二次がん(特に骨髄異形成症候群など)のリスクを少し上げる可能性が指摘されています。
  • 心房細動: 動悸や息切れ、胸の不快感などがないか注意が必要です。もともと心臓に持病がある方や高齢の方は特に注意が必要になる場合があります。
  • 出血: あざができやすくなったり、鼻血が出やすくなったりすることがあります。まれに重い出血が起こる可能性もあるため、他の血液をサラサラにするお薬を飲んでいる方などは特に注意が必要です。転倒などにも気をつけましょう。
  • 下痢、高血圧、筋肉のけいれんなど: これらの副作用も比較的見られやすいと報告されています。

疲労感、皮疹、関節痛、肝機能障害など、他のお薬でも見られるような副作用が起こる可能性はあります。

どちらのお薬を使うにしても、副作用が出た場合には、お薬を一時的にお休みしたり、量を減らしたり、症状を和らげるお薬を使ったりして対応します。副作用かな?と思ったら、早めに医師や看護師に相談することが大切です。

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ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(WM)の治療薬、ザヌブルチニブとイブルチニブを直接比較したASPEN試験の結果をご紹介しました。

この研究は、WMに対して、

  • ザヌブルチニブもイブルチニブも、どちらも高い効果を発揮すること
  • ザヌブルチニブは、イブルチニブと同等の有効性を持ちながら、特に心房細動などの副作用が少なく、より安全に治療を続けられる可能性があること

を明らかにしてくれました。これは、WMの患者さんにとって、治療の選択肢が広がり、より自分に合った、そして続けやすい治療を選べる可能性が出てきたという、本当に嬉しいニュースだと思います。

副作用の心配が少ないお薬を選べるかもしれない、というのは、治療を続けていく上でとても心強いことですよね。

ただし、どちらのお薬がより適しているかは、患者さん一人ひとりの状態(年齢、持病、他に飲んでいるお薬、ライフスタイルなど)や、副作用に対する考え方によって異なります。例えば、心臓に不安がある方はザヌブルチニブがより安心かもしれませんが、好中球減少が心配な場合はまた別の考慮が必要になるかもしれません。

この研究結果も参考にしながら、主治医に 御自身の希望や不安をしっかりと伝え、納得のいく治療を選んでいきましょう。私たち看護師も、皆さんの治療選択や副作用のケアについて、いつでも相談に乗りますので、気軽に声をかけてくださいね。

この記事は、医学論文の最新情報を分かりやすくお伝えするために作成しました。

医学的なアドバイスをするものではありませんし、特定の治療法をお勧めするものでもありません。治療に関する最終的な決定は、必ず担当の医師とよくご相談の上でなさってくださいね!

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