1. はじめに
こんにちは。血液内科で看護師をしているエリです。
悪性リンパ腫の治療、本当にお疲れ様です。特に再発されたり、治療が効きにくくなったりした場合、次の治療法はどうなるのだろうと、とてもご不安になりますよね。ご家族の皆さんも、心配なお気持ちで情報を探されていることと思います。
今回は、そんな再発したり治療が効きにくくなった非ホジキンリンパ腫(主にDLBCLと濾胞性リンパ腫)の患者さんを対象に、「抗体薬物複合体(ADC)」という新しいタイプのお薬を2種類、リツキシマブ(製品名:リツキサンなど)と一緒に使ってみて、どちらがより良いかを比較したROMULUS(ロムルス)試験という臨床試験の結果を報告した論文 から ご紹介したいと思います。
出典: Franck Morschhauser, et al. Polatuzumab vedotin or pinatuzumab vedotin plus rituximab in patients with relapsed or refractory non-Hodgkin lymphoma: final results from a phase 2 randomised study (ROMULUS) . Lancet Haematol. 2019 May;6(5):e252-e262.
この研究は、今では再発・難治のDLBCL治療で重要な選択肢となっているポラツズマブ ベドチン(製品名: ポライビー)が、なぜ選ばれて開発が進められたのか、その背景を知る上でも興味深い内容になっていますよ。
2. ADC(抗体薬物複合体)とは? ~ポラツズマブとピナツズマブ~
まず「抗体薬物複合体(ADC)」って、なんだか難しそうな名前ですよね。
これは、がん細胞の表面にある特定の目印(アンテナのようなもの)にくっつく「抗体」と、がん細胞を攻撃する強力な「お薬(細胞傷害性薬)」を、特殊な技術で繋ぎ合わせたお薬のことです。
まるで、がん細胞だけを狙って追跡するミサイル(抗体)に、強力な爆弾(お薬)を搭載して、がん細胞に直接届け、周りの正常な細胞へのダメージを少なくしよう! という仕組みなんです。すごい技術ですよね✨
今回のROMULUS試験で比較されたのは、以下の2種類のADCです。
どちらもB細胞リンパ腫の細胞が持つ目印を狙います。
注目のお薬「ポラツズマブ ベドチン」(製品名: ポライビー)
B細胞の表面にある「CD79b」という目印を狙う抗体に、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)という細胞を攻撃するお薬がくっついています。 このお薬は、現在、再発・難治性のDLBCLに対する治療や、初回治療としても(Pola-R-CHP療法として)日本でも承認され、使われていますね。
ピナツズマブ ベドチン (Pinatuzumab vedotin)
こちらは、B細胞の表面にある「CD22」という別の目印を狙う抗体に、同じくMMAEがくっついたADCです。
(※このピナツズマブ ベドチンは、残念ながら その後の開発が中止され、現在、治療薬としては使われていません。)
3. この研究(論文)は何を伝えたいの? ~2つのADC+リツキサン®を比較~
再発したり、治療が効きにくくなったりしたリンパ腫に対して、新しい治療法の開発は常に進められています。ADCは、がん細胞を狙い撃ちできる可能性から、大きな期待が寄せられていました。このROMULUS試験は、同じような仕組み(ADC)で、異なる目印(CD79bとCD22)を狙う2つの新しいお薬、ポラツズマブ ベドチンとピナツズマブ ベドチンを、標準的な治療薬であるリツキシマブ(製品名:リツキサン など)とそれぞれ組み合わせて(R-Pola療法 vs R-Pina療法)、再発・難治性のDLBCLまたは濾胞性リンパ腫(FL)の患者さんに使ってみて、どちらの組み合わせの方が、より効果が高く、かつ安全に使えるのか を直接比較するために行われた臨床試験(第2相試験)です。この結果をもとに、どちらのお薬を今後さらに開発していくかを決める、という目的もありました
POLARIX(ポラリクス)試験は、まさにこの点を検証するために行われた、世界中の多くの患者さん(879人)が参加した大規模な臨床試験(第Ⅲ相ランダム化比較試験)です。
4. 研究結果のポイント解説:R-Polaが有望!
試験の結果、ポラツズマブ ベドチン(ポライビー)とリツキシマブの組み合わせ(R-Pola)の方が、ピナツズマブ ベドチンとリツキシマブの組み合わせ(R-Pina)よりも、有望な結果を示しました。
ポイント①:奏効率(ORR)は同程度だけど…?
まず、まず、治療が効いた患者さんの割合(奏効率 ORR)を見てみると、濾胞性リンパ腫(FL)では、ORRはR-Pina群62%、R-Pola群70%と、R-Pola群の方がやや高い傾向でしたが、CR率はR-Pina群5%に対し、R-Pola群では45% と、R-Pola群の方が明らかに高い結果でした!
DLBCLでは、R-Pina群で60%、R-Pola群で54%と、大きな差はありませんでした。完全寛解(CR)率もそれぞれ26%、21%と、こちらも同程度でした。
ポイント②:効果の持続性はポラツズマブが優れる傾向?
論文には詳細な持続期間のデータは記載されていませんが、研究の結論(Interpretation)部分で、「ポラツズマブの方がピナツズマブよりも奏効期間が長い傾向があったこと」が、ポラツズマブの開発を継続する理由の一つとして挙げられています。つまり、R-Pola療法の方が、効果がより長持ちする可能性が示唆されたんですね。
ポイント③:安全性はポラツズマブの方がやや良好?
副作用についても比較されました。
重い副作用(グレード3以上)が出た割合は、DLBCLでは両群であまり差がありませんでした(R-Pina 79% vs R-Pola 77%)が、FLではR-Pola群の方が低い傾向でした(R-Pina 62% vs R-Pola 50%)。
特に深刻な点として、DLBCLのR-Pina群では、治療が関連した可能性のある死亡例が5件(主に感染症)報告されましたが、R-Pola群では治療関連死は報告されませんでした。FLでもR-Pola群で1件の死亡例がありましたが、全体としてR-Polaの方が安全性の面でやや優れていると判断されたようです
5. 副作用/注意点について
ROMULUS試験で見られた主な副作用について、もう少し詳しく見てみましょう。
共通して見られた副作用: どちらのADCを使った組み合わせでも、好中球減少(白血球の一種が減ること)が最も多い重い副作用(グレード3以上)でした。その他、貧血や血小板減少などの血液系の副作用や、下痢、吐き気、倦怠感なども見られました。
R-Pina群で多かった副作用: R-Pola群と比較して、高血糖がやや多く見られました。そして、先ほども触れたように、DLBCL患者さんで治療に関連した可能性のある死亡例(主に感染症)が報告された点は、重要な注意点です。
R-Pola群(ポライビー+リツキサン)の主な副作用: 好中球減少、貧血、血小板減少、下痢、疲労、吐き気、末梢神経障害(しびれなど)などが見られました。
- 末梢神経障害: ポラツズマブ ベドチン(ポライビー)は、結合しているお薬(MMAE)の影響で、手足のしびれなどの末梢神経障害を起こすことがあります。ただ、この試験ではR-CHOP療法で使われるビンクリスチンよりは頻度や程度が低い傾向にあると考えられます(直接比較ではありませんが)。しびれが出た場合は、お薬の量を減らしたり、一時的にお休みしたりすることで対応します。
感染症: どちらの治療法も免疫を抑える作用があるため、感染症には十分な注意が必要です。
治療を受ける際には、担当の先生や私たち看護師から、予想される副作用とその対策についてしっかり説明がありますので、ご安心くださいね!
6. まとめ(看護師からのメッセージ)
今回は、再発したり治療が効きにくくなったりしたリンパ腫に対する新しい治療法として期待された2種類のADC(抗体薬物複合体)、ポラツズマブ ベドチンとピナツズマブ ベドチンを、リツキシマブ(製品名:リツキサン®など)と組み合わせて比較したROMULUS試験の結果をご紹介しました。
この試験の結果、ポラツズマブ ベドチン(製品名:ポライビー)とリツキシマブの組み合わせ(R-Pola)が、有効性と安全性のバランスの点でより有望であると判断され、その後の開発が進められることになりました。一方で、ピナツズマブ ベドチンの開発は残念ながら中止となりました。
新しいお薬が実際に患者さんの元に届くまでには、このように様々な候補薬の中から、効果と安全性を厳しく比較・評価する臨床試験がいくつも行われているんですね。その過程で、有望と判断されたお薬だけが、次のステップに進むことができるのです。
このROMULUS試験の結果があったからこそ、今、ポラツズマブ ベドチン(ポライビー)が、再発・難治のDLBCLや、初回治療(Pola-R-CHP療法として)の重要な選択肢の一つとして、多くの患者さんの治療に役立っています。
治療法の選択に悩むこともあるかと思いますが、このように科学的な根拠に基づいて、より良い治療法が選ばれ、開発されていることを知っていただけたら嬉しいです。一番大切なのは、ご自身の状況に合わせて、主治医の先生とよく相談し、納得のいく治療法を選んでいくことです。この情報が、そのための材料の一つとなれば幸いです。
分からないこと、不安なことがあれば、いつでも私たち看護師にも気軽に声をかけてくださいね。皆さんがより快適に、安心して治療を続けられるよう、サポートさせていただければ嬉しいです!
7. 注意事項
この記事は、最新の医療論文情報を分かりやすくお伝えするために作成しました。
医学的なアドバイスをするものではありませんし、特定の治療法をお勧めするものでもありません。治療に関する最終的な決定は、必ず担当の医師とよくご相談の上でなさってくださいね!








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