1. はじめに
こんにちは。血液内科で看護師をしているエリです。
突然、血小板がすごく減ってしまったり、貧血が進んだり、体に紫色のあざができたり…もしかしたら、「血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)」かもしれない、と診断されて、大変な治療を受けていらっしゃる方、そしてそばで心配されているご家族の皆さん、本当に驚かれ、不安な日々をお過ごしのことと思います。
今回は、そのTTPという病気について、最新の知見に基づいて日本の専門家の先生方がまとめられた「血栓性血小板減少性紫斑病診療ガイド 2023」(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「血液凝固異常症等に関する研究班」TTPグループ作成)の内容を参考に、どんな病気なのか、そして今、どのような診断や治療が行われているのかを、皆さんに分かりやすくお伝えしたいと思います。
出典:血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)診療ガイド2023【編集:厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業
血液凝固異常症等に関する研究班】
TTPは迅速な診断と治療がとても大切な病気です。この情報が、皆さんの病気への理解を深め、安心して治療に臨むための一助となれば幸いです。
2. TTPとはどんな病気? & ADAMTS13検査について
まず、TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)がどんな病気なのか、少し詳しく見ていきましょう。
病気の仕組み
私たちの血液の中には、血を固める働きを持つ「フォン・ヴィレブランド因子(VWF)」というタンパク質があります。普段は、このVWFが働きすぎないように、「ADAMTS13(アダムティーエス サーティーン)」という酵素が、VWFを適切な大きさに切って調節してくれています。 ところが、TTPでは、この ADAMTS13酵素の働きが極端に悪くなってしまう のです。その結果、大きすぎるVWFが血液中にたくさん残り、これが血小板(血液を固める細胞)とくっつきやすくなって、体の細い血管(微小血管)の中に 小さな血栓(血の塊)がたくさんできてしまう、これがTTPの基本的な病態です。
病気の原因
なぜADAMTS13の働きが悪くなるのか? 原因によって2つのタイプに分けられます。
- 後天性TTP: 自分の免疫システムが間違ってADAMTS13を攻撃する「自己抗体」(特にインヒビターと呼ばれる邪魔をする抗体)を作ってしまうために起こります。ほとんどのTTPはこちらのタイプです。他の自己免疫疾患や薬剤が関連することもあります。
- 先天性TTP (Upshaw-Schulman症候群, USS): 生まれつきADAMTS13を作るための遺伝子に異常があり、酵素を十分に作れないために起こります。非常にまれなタイプです。
主な症状(古典的5徴候)
細かい血栓が色々な臓器の血流を悪くすることで、様々な症状が出ます。以下の5つが「古典的5徴候」と呼ばれますが、必ずしも全てそろうわけではありません。
- 血小板減少: 血栓を作るのに血小板がたくさん使われるため、急激に減少し、出血しやすくなったり、皮膚にあざ(紫斑)ができたりします。
- 溶血性貧血: 赤血球が細い血管を通る時に壊されてしまい、貧血(息切れ、だるさ)、黄疸などが起こります。血液検査ではLDHという酵素が高くなります。
- 腎機能障害: 腎臓の血管が詰まると、尿が出にくくなったり、むくんだりします。ただし、HUS(溶血性尿毒症症候群)ほど重症になることは少ないです。
- 精神神経症状: 頭痛、意識がもうろうとする、けいれん、麻痺など、脳の血流が悪くなることで様々な症状が出ます。症状が出たり消えたり、場所が変わったりする「動揺性」が特徴です。
- 発熱: 原因ははっきりしませんが、発熱も見られることがあります。
診断の鍵「ADAMTS13活性検査」
以前はこの5徴候で診断していましたが、今は ADAMTS13活性(働き具合)を測定する血液検査 が診断の決め手となります。この活性が 10%未満 に著しく低下している場合にTTPと診断されます。後天性か先天性かを見分けるために、ADAMTS13に対する自己抗体(インヒビター)の検査や、遺伝子検査を行うこともあります。
ADAMTS13活性の検査結果が出るまでには数日かかるため、臨床症状からTTPの可能性を予測するスコア(Frenchスコア、PLASMICスコア)も使われます。 スコアが高い場合は、結果を待たずに治療を開始することが重要です。
3. このガイドラインは何を伝えたいの? ~TTP診療の道しるべ~
TTPは非常にまれですが、命に関わる緊急性の高い病気です。そのため、専門の先生方が協力して、現時点で最も適切と考えられる診断や治療の方法をまとめた「診療ガイドライン」を作成しています。
今回ご紹介する「血栓性血小板減少性紫斑病診療ガイド 2023」は、2017年版、2020年版に続く改訂版です。
4. ガイドラインのポイント解説:後天性TTPの治療
後天性TTPと診断された、あるいは強く疑われる場合の治療について、ガイドラインが推奨するポイントを見ていきましょう。
ポイント①:早期診断・早期治療開始が何より重要!
TTPを疑ったら、ADAMTS13活性の結果を待たずに、直ちに血漿交換を開始することが強く推奨されています(推奨度1A)。治療開始の遅れは命に関わります。
ポイント②:急性期治療の3本柱
- 血漿交換(TPE): 体から悪い抗体や大きすぎるVWFを取り除き、正常なADAMTS13を含む新鮮凍結血漿(FFP)を補充する、最も重要な治療です(推奨度1A)。血小板数が正常化して安定するまで、毎日1回行います。
- 副腎皮質ステロイド療法: ADAMTS13に対する自己抗体の産生を抑えるために、通常、血漿交換と同時に開始します(推奨度1B)。点滴(パルス療法)または高用量の内服で行われます。(※保険適用外ですが標準的に行われています)
- カプラシズマブ(製品名:カブリビ): 血小板とVWFがくっつくのを直接ブロックする新しいお薬です。血漿交換やステロイドと併用することで、血小板数の回復を早め、死亡率を減らす効果が示されています(推奨度1A)。ADAMTS13活性の結果を待たずに開始することが推奨されていますが、もしTTPでないと判明した場合は速やかに中止します。
ポイント③:リツキシマブ(製品名:リツキサンなど)の位置づけは?
リツキシマブは、抗体を作るB細胞を減らすお薬で、難治例や再発例には保険適用があります。急性期に使うことは保険適用外ですが、ガイドラインでは以下のように考察・推奨されています。
- 急性期での使用: 再発リスクを減らす効果が海外のデータで示唆されており、国際的なガイドラインでも推奨されていることから、症例によっては急性期から血漿交換・ステロイドに加えて使うことを考慮しても良い(推奨度2B、保険適用外)。
- 難治例・早期再発例での使用: 血漿交換を5回以上行っても血小板数が回復しない、あるいは一旦回復してもすぐに低下してしまうような場合には、リツキシマブの投与を推奨する(推奨度1B、保険適用あり)。
- 寛解期での再発予防: 治療により血小板数が正常化しても、ADAMTS13活性が低いままだと再発リスクが高いことが分かっています。そのような場合に、再発を予防する目的でリツキシマブの投与を検討しても良い(推奨度2B、保険適用外)。
ポイント④:その他の治療
抗血小板薬(アスピリンなど): 急性期に使うと出血リスクを高める可能性があり、またカプラシズマブとの併用も避けるべきとされています(推奨度2B)。再発予防に少量使うこともありますが、効果は まだ分かっていません。
赤血球輸血: 貧血が強い場合に行います(推奨度1A)。
血小板輸血: 基本的には血栓を悪化させるリスクがあるため禁忌と考えられています(推奨度1B)。ただし、命に関わるような重篤な出血がある場合に限り、慎重に適応が検討されます。
5. ガイドラインのポイント解説:先天性TTP (USS) の治療
先天性TTP(Upshaw-Schulman症候群)は、ADAMTS13を作る遺伝子の異常が原因です。
ポイント①:診断が重要
原因不明の血小板減少を繰り返す場合、特に新生児期に重症黄疸があったり、感染症をきっかけに血小板が減ったりする場合は、この病気を疑うことが大切です。ADAMTS13活性が著減し、インヒビターが陰性であれば強く疑われます。確定診断には遺伝子検査が必要です。 ご両親のADAMTS13活性を測ると、正常の半分くらいに低下していることが多いのも特徴です。
ポイント②:治療の基本はFFP補充
治療は、足りないADAMTS13酵素を補充するために、定期的に新鮮凍結血漿(FFP)を輸注することが基本です(推奨度1B)。 投与量や頻度(例:5~10ml/kgを2~3週ごと)は、患者さんの状態(血小板数や症状)を見ながら調整します。
ポイント③:妊娠時には特に注意!
先天性TTPの女性が妊娠した場合、TTP発作(血栓症)を起こしやすく、母体だけでなく赤ちゃんにも危険が及ぶリスクが非常に高いです。 妊娠中は 症状がない時期でも、より頻回に(毎週など)、十分な量のFFPを予防的に輸注することが、母子の安全のために不可欠とされています。
6. 副作用/注意点について
TTPの治療には、以下のような副作用や注意点があります。
血漿交換(TPE)
- アレルギー反応: FFPに対するアレルギー(蕁麻疹、発熱、血圧低下など)が起こることがあります。
- カテーテル関連: 血漿交換のためには太いカテーテルを首や足の付け根の血管に入れる必要があり、その際の出血、感染、気胸(肺に穴が開く)、血栓などのリスクがあります。
- その他: クエン酸による低カルシウム血症(しびれなど)、血圧変動。
ステロイド
感染症にかかりやすくなる、血糖値が上がる、不眠、気分の変動、骨がもろくなる、など様々な副作用があります。
カプラシズマブ(製品名:カブリビ)
- 出血: 最も注意すべき副作用です。軽いあざや鼻血から、まれに重い消化管出血や脳出血まで起こる可能性があります。出血のサインに注意し、他の血液をサラサラにする薬との併用は慎重に行われます。
- 注射部位反応: 皮下注射した場所の腫れや炎症。
リツキシマブ(製品名:リツキサン など)
- インフュージョンリアクション: 初回投与時に特に、発熱、悪寒、発疹、血圧低下、呼吸困難などの反応が出ることがあります。慎重な投与と前投薬が必要です。
- 感染症: B細胞を減らすため、感染症にかかりやすくなることがあります。B型肝炎の再活性化にも注意が必要です。
血小板輸血の原則禁忌
TTPの急性期に血小板を輸血すると、血栓形成を悪化させ、病状を急激に悪化させる危険があるため、命に関わる出血がない限り原則行いません。
治療中は、副作用を早期に発見し、適切に対処していくことが大切です。体調の変化は我慢せず、私たち医療スタッフに伝えてください。
7. まとめ(看護師からのメッセージ)
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は、診断や治療に専門的な知識が必要で、緊急対応が求められる難しい病気です。でも、ADAMTS13検査による正確な診断が可能になり、血漿交換や免疫抑制療法、そしてカプラシズマブ(製品名:カブリビ︎)という新しいお薬の登場によって、治療成績は確実に向上し、救命できる方が大幅に増えました。
今回の「TTP診療ガイド2023」は、そうした最新の進歩を反映し、私たち医療者がより良い治療を提供するための指針を示してくれています。特に、カプラシズマブの早期導入や、リツキシマブの適切な使用に関する推奨は、今後の治療を考える上でとても重要ですね。
TTPと診断され、大変な治療を受けている皆さん、そして支えるご家族の皆さん、先の見えない不安を感じることもあるかと思いますが、治療法は進歩しています。どうか希望を忘れずにいてください。
大切なのは、この病気について正しい知識を持ち、診断や治療について主治医の先生としっかりコミュニケーションをとることです。分からないこと、不安なことは、どんなことでも質問してください。私たち看護師も、皆さんの心と体に寄り添いながら、治療を精一杯サポートさせていただきます。一緒にこの病気を乗り越えていきましょうね。
8. 注意事項
この記事は、診療ガイドラインの情報を分かりやすくお伝えするために作成しました。
医学的なアドバイスをするものではありませんし、特定の治療法をお勧めするものでもありません。治療に関する最終的な決定は、必ず担当の医師とよくご相談の上でなさってくださいね!




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