血液がん

【論文解説】再発・難治の多発性骨髄腫治療「トアルクエタマブ+テクリスタマブ併用療法」って、実際はどう使ってる?(Real World Data より)

1. はじめに

こんにちは。血液内科で看護師をしているエリです。
多発性骨髄腫(MM)の治療、本当にお疲れ様です。特に再発されたり、これまでの治療が効きにくくなったりした患者さんにとって、テクリスタマブ(製品名: テクベイリ)やトアルクエタマブ といった「二重特異性抗体」は、大きな期待が寄せられている新しいお薬ですよね。

今回は、このテクリスタマブ と トアルクエタマブについて、実際の医療現場(リアルワールド)で、患者さんにどのように投与されているのか、特に投与スケジュール(最初のステップアップ投与や、治療を続けていく中での投与の間隔など)に焦点を当てて調査した、アメリカの多くの病院からのデータをまとめた研究論文を参考にしています。(※2025年4月時点 トアルクエタマブ は日本未発売です。)

出典:Chunara F, Lugo C, Osinski K, et al. Real-world treatment patterns for teclistamab and talquetamab in multiple myeloma (MM): experience from 609 patients. Blood Cancer J. 2025 Apr 8;15(1):61.

以前のブログでは、これらの二重特異性抗体が臨床試験でどのような効果や安全性を示したか、というお話をさせていただきましたね。 今回は、そのお薬が「実際の診療でどのように使われているのか?」という、皆さんが治療を受ける上で気になるであろうリアルな情報をお届けしたいと思います。

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まず、この2つのお薬について簡単におさらいしましょう。

どちらも「二重特異性抗体」という種類の免疫療法薬です。骨髄腫細胞の表面にある目印(ターゲット)と、患者さん自身の免疫細胞であるT細胞の表面にある目印(CD3)の両方にくっつくことができます。これにより、T細胞を骨髄腫細胞に引き寄せて活性化させ、骨髄腫細胞を攻撃させる、いわば「T細胞の誘導ミサイル」のような働きをします。

  • テクリスタマブ(製品名: テクベイリ): 骨髄腫細胞の BCMA という目印を狙います。
  • トアルクエタマブ: 骨髄腫細胞の GPRC5D という目印を狙います。

どちらも再発・難治性の多発性骨髄腫に対して承認されています。投与は皮下注射です。治療開始時には、サイトカイン放出症候群(CRS)という副作用を軽減するために、少量から始めて段階的に投与量を増やしていく「ステップアップ投与(SUD)」を行います。その後の維持投与のスケジュールは、基本的にはテクリスタマブは週1回(効果が安定すれば2週に1回に延長可)タルケタマブは週1回または2週に1回とされています。

お薬の使い方は、臨床試験(治験)で決められた用法・用量が基本となりますが、実際の診療現場では、患者さん一人ひとりの状態や副作用の出方、生活状況、あるいは医師の経験や判断によって、投与スケジュールなどが調整されることがあります。

この研究は、テクリスタマブ や トアルクエタマブ といった新しいお薬が、実際の多くの病院(主にアメリカの大学病院など)で どのように使われているのか、その実態(リアルワールドデータ) を明らかにしようとしたものです。特に、

  • ステップアップ投与(SUD): 副作用を抑えるための初回投与は、どれくらいの間隔で行われているのか?
  • 長期投与の間隔: 治療を続けていく中で、承認されているスケジュール通りなのか、それとも投与の間隔を延ばすなどの調整が行われているのか?

といった点に注目して、600人以上の患者さんのデータを分析しています。このリアルな情報から、より安全で効果的、かつ患者さんの負担も少ない使い方を探るヒントが見つかるかもしれません。

実際の診療データを見てみると、興味深い傾向がいくつか見えてきました。

治療開始時のステップアップ投与は、安全のために慎重に行われますが、多くの患者さんで、投与の間隔を 最低限の48時間(中1日) あける、比較的短いスケジュール(初日-3日目-5日目 のような形)で実施できていたようです。これは、もし入院でSUDを行う場合、入院期間を少しでも短縮できる可能性があることを示唆していますね。

お薬の添付文書には、治療を一定期間中断した場合、安全のために再度ステップアップ投与から始めるように書かれています。しかし、実際のデータを見ると、再SUDが行われたケースは非常に少なかったようです。これは、病状が落ち着いている患者さんでは、現場の医師が「もう一度少量から始めなくても大丈夫だろう」と判断しているケースが多いのかもしれません。

  • テクリスタマブ(製品名:テクベイリ): 最初の3ヶ月は、ほとんどの方が承認通り週1回(Q1W)投与を受けていましたが、治療開始から3~6ヶ月経つと、2週に1回(Q2W)投与の割合が約3割まで増え、さらに 6ヶ月を超えるとQ2Wが最も多くなり(約44%)4週に1回(Q4W)の投与も1割以上に見られました。
  • トアルクエタマブ: こちらは、承認されている使い方に週1回と2週に1回があるためか、治療初期からQ2Wが比較的多く、時間が経つにつれてさらにその割合が増加していました(6ヶ月超で約8割)。こちらも、4週に1回などの間隔で投与されている方も少数ですがいらっしゃいました。

臨床試験で決められた使い方よりも投与間隔を延ばす理由としては、以下のようなことが考えられます。

  • 副作用の軽減: 特に長期投与で心配される感染症などのリスクを減らすため。
  • 患者さんの負担軽減: 通院回数を減らすため。
  • T細胞の疲弊を防ぐ: 免疫細胞であるT細胞を使いすぎると、効果が落ちる可能性があるため、適度な休息を与えるため。
  • 医療費の抑制: 高価なお薬なので、投与回数を減らすことで医療費を抑えるため。 実際に、他の臨床試験でも、投与間隔を延ばしても効果が維持され、副作用が軽減される可能性が報告され始めており、今回のリアルワールドデータは、そうした動きが実際の現場でも行われていることを示唆しています。

この論文は、投与パターンを調べたものなので、副作用に関する新しい情報や詳細なデータは含まれていません。しかし、この結果から考えられる注意点があります。

リアルワールド(実際の治療)で投与間隔の延長が行われている実態が見えましたが、どの程度の間隔まで延ばしても安全で、かつ効果がしっかり維持されるのか、まだ確立された証拠(エビデンス)はありません今後のさらなる研究が必要です。(※自己判断で間隔を空けたりするのは非常に危険ですので、絶対に主治医と御相談ください。)

ポイント③で触れたように、投与間隔を延ばす理由の一つに感染症リスクの軽減がありますが、逆に言えば、二重特異性抗体の治療中は、標準的なスケジュールであっても感染症に十分注意が必要ということです。免疫グロブリンの補充なども含め、しっかりとした感染対策が重要になります。

実際には再SUDが省略されることが多いようですが、添付文書で推奨されているのには理由があります。休薬期間や患者さんの状態によっては、再開時にCRSなどのリスクが高まる可能性も否定できません。休薬後の再開については、必ず医師の慎重な判断が必要です。

このデータは米国の主に大学病院などのデータであり、日本の一般的な診療とは異なる可能性があります。また、データベース研究特有の限界(情報の偏りなど)もあります。

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テクリスタマブ(製品名:テクベイリ)と トアルクエタマブ は、治療が難しくなった多発性骨髄腫の患者さんにとって、本当に大きな希望となるお薬ですね。トアルクエタマブ は 2025年4月時点で 未承認ではありますが、日本人のデータを揃えて、承認申請中です。

今回の研究では、実際の診療現場(リアルワールド)でのこれらの薬の使い方、特に投与スケジュールについて、興味深い実態が明らかになりました。治療開始時のステップアップ投与はスムーズに行われ、長期投与では、多くの患者さんで効果を見ながら投与間隔を延ばす工夫がされているようです。

投与間隔を延ばすことは、通院の負担を減らしたり、長期的な副作用(特に感染症)のリスクを下げたりする上で、とても魅力的ですよね。ただし、どの程度まで間隔を延ばしても大丈夫なのか、その最適な方法については、まだ研究が進められている段階です。

皆さんの治療スケジュールについても、効果や副作用、生活状況などを考慮しながら、担当の先生が最適と考えて調整されているはずです。もし投与間隔などについて疑問や希望があれば、遠慮なく先生に相談してみてくださいね。「なぜこのスケジュールなんですか?」「間隔を延ばすことはできませんか?」など、ご自身の治療について理解を深めることはとても大切です。

長いお付き合いになる病気だからこそ、私たち看護師も、皆さんの不安な気持ちに寄り添いながら、治療や生活のサポートをさせていただきます。心配なこと、分からないことは、いつでも私たちに声をかけてくださいね。

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この記事は、医学論文の最新情報を分かりやすくお伝えするために作成しました。

リアルワールドデータに関する報告であり、特定の投与スケジュールを推奨するものではありません。また、医学的なアドバイスをするものでもありません。治療に関する最終的な決定は、必ず担当の医師とよくご相談の上でなさってくださいね!

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