1. はじめに
こんにちは。血液内科で看護師をしているエリです。
多発性骨髄腫(MM)と診断され、治療を続けていらっしゃる皆さん、そしてそばで温かく支えていらっしゃるご家族の皆さん、長い治療経過の中で、病状の変化や治療法の選択など、たくさんの決断や悩みに向き合ってこられたことと思います。本当にお疲れ様です。
今回は、特に再発したり治療が効きにくくなった多発性骨髄腫(RRMM)の患者さんと、その治療に関わる私たち医療者(HCP)が、治療についてどのように考え、何を優先しているのか、そしてCAR-T療法や二重特異性抗体といった新しい治療法についてどう捉えているのか、その意識の違いなどを大規模なアンケート調査で明らかにした研究論文 を参考にしています。
出典:Ailawadhi S, et al. Perspectives of Healthcare Providers and Patients with Relapsed/Refractory Multiple Myeloma on Treatment Priorities and Novel Therapies. Patient Prefer Adherence. 2025 Apr 16;19:1089-1104.
この研究は、患者さんと医療者がより良いコミュニケーションを取り、一緒に納得のいく治療を選んでいくために、とても大切な視点を与えてくれるものだと思います。
2. 注目される疾患と新しい治療法
まず、多発性骨髄腫(MM)の治療法 や 残された課題 について、簡単におさらいしましょう!
再発・難治性の多発性骨髄腫(RRMM)の課題
MMは治療法が進歩したとはいえ、残念ながら再発を繰り返すことが多い病気です。特に、これまで治療の中心だった3つの主要なクラスのお薬(プロテアソーム阻害薬: PI、免疫調節薬: IMiD、抗CD38抗体薬)が効きにくくなった状態(Triple-Class Exposed/Refractory: TCE/R)になると、その後の治療選択肢が限られ、予後も厳しいという課題がありました。
新しい治療法への期待
こうしたRRMMの患者さんに対して、CAR-T(カーティー)細胞療法( 患者さん自身の免疫細胞(T細胞)を遺伝子改変して骨髄腫細胞を攻撃させる治療法)や、二重特異性抗体(BsAbs)( 骨髄腫細胞の目印(BCMAなど)とT細胞のスイッチ(CD3)を同時に掴んで、T細胞に骨髄腫細胞を攻撃させる注射薬 として、テクリスタマブ(製品名:テクベイリ︎)、エルラナタマブ(製品名:エルレフィオ︎)、ベランタマブ(製品名:ブレーンレップ)など) といった、新しいタイプの免疫療法が登場し、大きな希望となっています。
3. この研究(論文)は何を伝えたいの? ~患者さんと医療者のホンネを探る~
新しい治療法が登場し、選択肢が増えることは素晴らしいことですが、一方で治療はより複雑になっています。どの治療法を選ぶか決める際には、効果だけでなく、副作用、投与方法、通院頻度、費用、そして患者さん自身の生活や価値観など、様々なことを考慮する必要があります。
そこで重要になるのが、患者さんと医療者がよく話し合い、一緒に治療方針を決めていく「共有意思決定(Shared Decision Making, SDM)」です。
しかし、実際には、患者さんと医療者の間で、治療に対する考え方や優先順位にギャップ(認識の違い)があるのではないか、と言われています。この研究は、そのギャップの実態を探るために、世界7カ国のRRMM患者さん(1301人)と、MM治療を専門とする医療者(HCP、983人)に大規模なアンケート調査を行い、
- 治療法を選ぶ際に、何を最も重要視しているか?(治療の優先順位)
- CAR-Tや二重特異性抗体といった新しい治療法について、どれくらい知っていて、どう考えているか?
- 新しい治療法を選ぶ上での 障壁(バリア) や 抵抗要因 は何か?
- 治療の意思決定に、患者さんはどのように関わりたいと考えているか?
といった点を、患者さんと医療者それぞれの視点から明らかにしようとしました。
この調査結果から、より良いコミュニケーションや意思決定支援のために何が必要か、そのヒントを探ろうとしたわけですね。
4. 研究結果のポイント解説:患者さんと医療者の考えにはギャップも?
アンケートの結果、患者さんと医療者の間には、治療に対する考え方や優先順位に、いくつかの興味深い違いが見られました。
ポイント①:治療で何を優先する? ~患者さんはQOLや副作用、HCPは効果重視?~
患者さんが治療選択で重視すること
- 病気の進行を遅らせること(2回目治療:47%, 3回目以降:49%)
- 副作用を最小限にすること(43%, 49%)
- 長生きすること(39%, 38%)
これらがトップ3でした。特に、高齢(65歳以上)の患者さんは副作用をより重視し、若い(65歳未満)患者さんは治療の利便性(通院頻度や時間)や、新しい治療のために遠くの病院へ紹介されるのを避けたい、といった点をより重視する傾向がありました。
医療者(HCP)が治療選択で重視すること
- QOL(生活の質)を維持すること(57%, 62%) が上位でした。
- 長生きすること(生存期間の延長)(71%, 64%)
- 病気をコントロールすること(64%, 61%)
考え方のギャップ
患者さんは副作用の最小化を非常に重視しているのに対し、医療者は効果(生存期間、病勢コントロール)をより優先する傾向が見られました。また、患者さんが重視する治療の利便性や経済的負担は、医療者の優先順位ではやや低い傾向でした。
ポイント②:新規治療法(CAR-T, BsAbs)への意識:ギャップが大きい?
認知度
患者さんの中では、CAR-T療法について聞いたことがある人は約半数、二重特異性抗体(BsAbs)についてはさらに少ない(約4割)という状況でした。
提案状況
医療者は、対象となる患者さんのうち約8割にCAR-TやBsAbsを「提案した」と回答しましたが、実際に患者さん側が「提案された」と認識していたのは、CAR-Tで17%、BsAbsで13%と、非常に低い割合でした。ここに大きな認識のギャップがあるようです。
地域差・施設差
アメリカでは欧州や日本よりも新規治療法が提案される割合が高い傾向がありました。また、大学病院などの専門施設(CoE)の医療者の方が、地域の病院(非CoE)の医療者よりも、新規治療法の適応判断に自信を持っている割合が高いという結果でした。
ポイント③:新規治療法の選択理由・辞退理由
BsAbsを選んだ理由
患者さんは、有効性(寛解、症状緩和、生存への期待)だけでなく、 非臨床的な要因(治療時間が短い、経済的影響が少ない) も重視していました。
CAR-Tを選んだ理由
こちらも有効性への期待に加え、他の患者さんの成功体験談や、経済的負担が少ないことが重要な理由となっていました。
辞退理由
患者さんが新規治療を辞退する理由としては、「長期的な安全性が心配」「効果が不確か」「短期的な副作用が心配」などが挙げられました。一方、医療者が考える辞退理由は「新しい治療に圧倒されてしまう」「繰り返しの治療に疲れてしまった」「入院が必要」など、少しズレが見られました。
ポイント④:治療意思決定への参加意欲:患者さんは積極的!
嬉しいことに、調査に参加した患者さんの 約87%が、「治療方針を決めるプロセスに積極的に関与したい」と考えていました! これは、地域や年齢、治療ラインに関わらず共通していました。
5. 副作用/注意点について
この研究は治療法そのものの副作用を調べたものではありませんが、副作用に対する患者さんと医療者の認識の違いが浮き彫りになりました。
症状は様々患者さんが「特に大変」と感じる副作用
白血球減少、重い感染症、骨関連の副作用(痛みなど)、血小板減少、好中球減少などが上位でした。
医療者が「特に大変」と考える副作用
患者さんと同様に白血球減少や重い感染症を挙げる一方、ICANS(神経系の副作用)、末梢神経障害、CRS(サイトカイン放出症候群)といった、新しい免疫療法に特有の副作用を、患者さんよりも強く懸念している傾向が見られました。
認識のギャップ
特に、骨関連の副作用や血球減少といった、日常生活への影響が大きい可能性のある副作用について、患者さんの「大変さ」を医療者が少し過小評価している可能性があるかもしれません。逆に、CRSやICANSは、医療者は非常に警戒していますが、経験した患者さんにとっては、他の副作用ほど「大変」とは感じられていない可能性も示唆されました(ただし経験者は少数です)。
この認識のギャップを埋めるためには、やはりコミュニケーションが大切ですね。患者さんは自分のつらい症状を具体的に伝え、私たち 医療者 は その声にしっかり耳を傾ける必要があると 強く感じます。
6. まとめ(看護師エリからのメッセージ)
今回の調査研究は、再発・難治性の多発性骨髄腫(RRMM)の治療において、患者さんと私たち医療者の間で、治療の目標や優先順位、副作用への懸念などにギャップが存在する可能性があることを、改めて示してくれました。
患者さんは、単に病気を治すことや長生きすることだけでなく、治療中の生活の質(QOL)を保つことや、副作用をできるだけ抑えること、治療に伴う時間的・経済的な負担を減らすことも、非常に大切に考えていらっしゃいます。特にご高齢の方や合併症のある方は、副作用への懸念がより大きい傾向がありました。
一方で、CAR-T療法や二重特異性抗体といった新しい治療法については、患者さんへの情報提供や理解がまだ十分に進んでいない現状や、医療者側にもロジスティクスや経験不足といった課題があることも見えてきました。
この研究が教えてくれる最も大切なことは、「共有意思決定(Shared Decision Making, SDM)」の重要性だと思います。患者さんがご自身の価値観や希望をしっかりと医療者に伝え、医療者は最新の治療情報だけでなく、患者さんの想いにも耳を傾け、一緒に最善の治療方針を決めていく。このプロセスこそが、患者さんが納得し、安心して治療に臨むために不可欠です。
87%もの患者さんが治療決定に積極的に関わりたいと考えている、という結果は、私たち医療者にとっても大きな励みになります!皆さんの「声」を聞かせていただくことが、より良い治療への第一歩です。一緒に、最適な道を探していきましょう!
7. 注意事項
この記事は、医学論文(専門家の考察)の情報を分かりやすくお伝えするために作成しました。
医学的なアドバイスをするものではありませんし、特定の治療法やリスクについて断定するものでもありません。治療に関する最終的な決定は、必ず担当の医師とよくご相談の上でなさってくださいね!









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