骨髄腫

【多発性骨髄腫(MM)と診断された方へ】治療はどう進むの? 看護師と一緒に学ぶ最新ガイドライン(2024年版)

こんにちは。血液内科で看護師をしているエリです。
多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)、あるいはMM(エムエム)と診断され、病気の名前を聞いて驚かれたり、骨の痛みや貧血などの症状でつらい思いをされたりしている方もいらっしゃるかもしれません。これからどんな治療が始まるのか、ご不安な気持ちでいっぱいだと思います。ご家族の皆さんも、ご心配のことと思います。

今回の解説は、日本の血液内科の先生方が作成された 造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版) の 多発性骨髄腫 の部分を参考にしています。

出典:日本血液学会 編 造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版)【編集:日本血液学会】

多発性骨髄腫(MM)は、残念ながら今の医学では完全に治癒させることが難しい病気の一つです。
でも、ここ十数年で新しいお薬が次々と登場し、治療法が劇的に進歩して、病気と上手く付き合いながら、長く元気に生活できる患者さんが本当に増えてきているんですよ。今日は、この多発性骨髄腫について、どんな病気で、どのように診断や治療を進めていくのか、最新のガイドラインの内容をもとに、できるだけ分かりやすくお伝えしたいと思います。皆さんが病気を理解し、希望を持って治療に臨めるよう、心を込めてお話ししますね。

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まず、多発性骨髄腫は、血液細胞の中の 形質細胞(けいしつさいぼう) という、本来は細菌やウイルスと戦うための抗体(免疫グロブリン)を作る役割を持つ細胞が、がん化して骨髄の中で異常に増えてしまう病気です。

がん化した形質細胞(骨髄腫細胞と言います)は、役に立たない異常な抗体( M蛋白(エムたんぱく) と呼ばれます)をたくさん作り出してしまいます。これが血液中や尿中に増えてくるのも特徴です。

  • C = 高カルシウム血症 (Calcium elevation): 骨が壊れることで血液中のカルシウム濃度が高くなり、吐き気や意識障害などが起こることがあります。
  • R = 腎不全 (Renal insufficiency): M蛋白などが腎臓に負担をかけ、腎臓の働きが悪くなることがあります。
  • A = 貧血 (Anemia): 正常な赤血球が作られにくくなり、だるさや息切れなどの貧血症状が出ます。
  • B = 骨病変 (Bone lesions): 骨が溶けたり(溶骨病変)、もろくなったりして、骨の痛みや骨折が起こりやすくなります。

血液検査(M蛋白や血球数、カルシウム、腎機能など)、尿検査(M蛋白)、骨髄検査(形質細胞の割合や性質を調べる)、そして骨の状態を見る画像検査(レントゲン、CT、MRI、PET-CTなど)を組み合わせて診断します。

これらのCRAB症状や、後述する特定のバイオマーカー(SLiM基準)が一つでもある場合に、「症候性多発性骨髄腫」として、全身的な治療を開始する必要があります。M蛋白が見つかっても症状がない段階(MGUSや くすぶり型骨髄腫 と呼ばれます)では、基本的に治療はせず経過観察となります。

治療を始める前には、病気が体のどのくらい進んでいるか(病期)や、病気の勢い(リスク)を評価します。

  • 病期分類 (ISS, R-ISS): 血液検査のβ2ミクログロブリンとアルブミンの値で分類する ISS(国際病期分類) や、それに加えて染色体異常の種類とLDHという検査値を加味した R-ISS(改訂国際病期分類) が用いられます。これらは大まかな予後の見通しを知るための指標です。
  • リスク評価: がん細胞の染色体検査(特にFISH法)で、特定の異常(del(17p), t(4;14), t(14;16)など)が見つかると、「高リスク」と判断され、治療が効きにくい、あるいは再発しやすい可能性があると考えられます。このリスク評価も治療法選択の参考になります。

多発性骨髄腫の治療戦略は、主に年齢(目安として65歳未満)や全身の状態、持病の有無などによって、ご自身の血液細胞を使った強力な治療法である 自家造血幹細胞移植(自家移植) が可能かどうか(移植適応か、移植非適応か)で、最初の治療方針が大きく分かれます。

比較的お若く、体力があり、大きな持病がない「移植適応」と判断された方の治療です。目標は、できるだけ骨髄腫細胞を減らし(深い寛解と言います)、再発までの期間を長くすることです。

まず、自家移植を行う前に、数種類の飲み薬や注射薬を組み合わせた「導入療法」を通常3~4コース行います。これにより、まず骨髄腫細胞の量を減らします。現在よく使われるのは、ボルテゾミブ(製品名:ベルケイド、プロテアソーム阻害薬)+レナリドミド(製品名:レブラミド、免疫調節薬)+デキサメタゾン(ステロイド)の3剤を組み合わせる BLD療法 などです。腎臓の機能が悪い場合は、レナリドミドの代わりにシクロホスファミド(製品名:エンドキサンなど)を使うBCD療法なども選択されます。

導入療法で効果が見られたら、血液を作るもとになる細胞(造血幹細胞)を血液中から採取して、凍結保存しておきます。G-CSFという注射や化学療法、場合によってはプレリキサホル(製品名:モゾビル)というお薬を使って効率よく採取します。

免疫化学療法(特にFCR療法)は、BTK阻害薬と比べて効果が劣ることが多いため、現在では初回治療として推奨されていません。ただし、例外的に、若くて体力があり、p53異常がなく、かつIGHV遺伝子が変異型(※この検査は保険適用外です)という、ごく一部の予後が良いと考えられる患者さんでは、FCR療法も選択肢の一つとして残ってはいますが、BTK阻害薬とのメリット・デメリットをよく比較検討する必要があります。

移植が無事に終わった後、さらに再発のリスクを減らすために、レナリドミド(レブラミド)やボルテゾミブ(ベルケイド)、イキサゾミブ(製品名:ニンラーロ)といったお薬で治療を続ける(地固め療法や維持療法)ことがあります。これにより、再発までの期間を延ばす効果が期待できますが、すべての方に必要かどうかや、どのお薬をどのくらいの期間使うのがベストかは、まだ研究が続けられています。行うかどうかは、再発のリスクや副作用などを考慮して、個別に相談して決めていきます。

自家移植を行うのが難しいと判断された方の治療です。目標は、病気の進行を抑え、症状を和らげ、生活の質(QOL)を保ちながら、できるだけ長く元気に過ごすことです。

現在、移植非適応の患者さんの初回治療として、以下の2つの治療法が標準治療として強く推奨されています。どちらも従来の治療法よりも優れた効果(再発までの期間を延ばす効果)が証明されています。

  • DLd療法: ダラツムマブ(製品名:ダラキューロ、抗CD38抗体という注射薬)+レナリドミド(製品名:レブラミド、飲み薬)+デキサメタゾン(ステロイド、飲み薬または点滴)。効果が続く限り治療を続けます。
  • D-MPB療法: ダラツムマブ+メルファラン(飲み薬)+プレドニゾロン(ステロイド、飲み薬)+ボルテゾミブ(製品名:ベルケイド、注射薬)。通常9コース行い、その後はダラツムマブ単独の維持療法に移行します。

患者さんの状態(例えば、手足のしびれが出やすい方にはボルテゾミブを避けたり、血栓ができやすい方にはレナリドミドを慎重に使ったり)によっては、これまでの標準治療であったLd療法、MPB療法、Bd療法(ボルテゾミブ+デキサメタゾン)などが選択されることもあります。

ご高齢の方では、ステロイド薬であるデキサメタゾンの量を減らして使うことが推奨されています。副作用を減らすためです。

多発性骨髄腫は、治療がよく効いても再発してしまうことが多い病気です。でも、再発したり、治療が効きにくくなったりした場合(難治性)でも、今はたくさんの治療の選択肢があります。

どんな治療を選ぶかは、これまでにどんな治療を受けてきたか、その治療がどれくらい効いていたか、再発までの期間はどれくらいだったか、そして現在の体の状態などを総合的に考えて決めます。

主に以下のような種類のお薬を、2種類または3種類組み合わせて使います。

  • プロテアソーム阻害薬: ボルテゾミブ(ベルケイド)、カルフィルゾミブ(製品名:カイプロリス)、イキサゾミブ(ニンラーロ)
  • 免疫調節薬(IMiDs): レナリドミド(レブラミド)、ポマリドミド(製品名:ポマリスト)、サリドマイド(製品名:サレド)
  • 抗CD38抗体: ダラツムマブ(ダラキューロ)、イサツキシマブ(製品名:サークリサ)

上記の主要な3種類のお薬グループ(プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体)がすべて効きにくくなってしまった、という難しい状況(3クラス抵抗性)でも、新しい治療法が登場しています。

  • BCMA標的CAR-T細胞療法 (CQ7): 患者さん自身の免疫細胞(T細胞)を取り出して、骨髄腫細胞の目印であるBCMAを攻撃するように遺伝子改変し、体に戻す治療法です。イデカブタゲン ビクルユーセル(製品名:アベクマ)とシルタカブタゲン オートルユーセル(製品名:カービクティ)の2種類があります。非常に高い効果が期待できますが、実施できる施設や患者さんの条件が限られています
  • 二重特異性抗体: 骨髄腫細胞のBCMAと免疫細胞(T細胞)のCD3の両方にくっついて、免疫細胞が骨髄腫細胞を攻撃するのを助ける注射薬です。エルラナタマブ(製品名:エルレフィオ)が日本でも使えるようになりました。(※ただし、過去にBCMAを標的とした治療を受けていないことが条件になる場合があります)

若い方では2回目の自家移植や、同種移植もまれに選択肢となることがあります。(CQ1)

多発性骨髄腫の治療では、骨髄腫細胞を減らす治療と同時に、骨を守るための治療や、他の合併症への対策(支持療法)も非常に重要です。

骨が溶けたり骨折したりするのを防ぐために、ビスホスホネート製剤(ゾレドロン酸(製品名:ゾメタ)など)か、デノスマブ(製品名:ランマーク)という注射薬を定期的に使います。これらの薬は骨の痛みを和らげるだけでなく、生存期間を延ばす効果も期待されています。

注意点としては、これらの薬を始める前には、必ず歯医者さんでチェックを受けて、必要な治療(抜歯など)を済ませておくことが大切です。まれに 顎骨壊死(がっこつえし) という副作用が起こることがあるからです。また、デノスマブでは血液中のカルシウムが下がりすぎること(低カルシウム血症)にも注意が必要です。

腎臓を守るためのケア、感染症の予防(ワクチン接種や予防的な抗菌薬など)、手足のしびれ(末梢神経障害)や血栓症(血の塊)への対策なども、治療と並行して行っていきます。

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MM治療に使われるお薬には、様々な副作用があります。主治医の先生や薬剤師さんから詳しい説明がありますが、代表的なものをいくつかお伝えしますね。

プロテアソーム阻害薬: 手足のしびれ(特にボルテゾミブ)、心臓への影響(特にカルフィルゾミブ)、血小板減少など。

免疫調節薬: 眠気、便秘(特にサリドマイド)、骨髄抑制、血栓症(特にレナリドミド、ポマリドミド、予防薬が必要です)、皮疹など。催奇形性があるため、厳重な管理が必要です。

抗CD38抗体: 初回の点滴時にアレルギーのような反応(点滴反応)が出やすいですが、予防薬で対応できます。感染症にかかりやすくなることがあります。

CAR-T細胞療法: サイトカイン放出症候群(CRS:高熱、血圧低下など)や神経系の副作用(ICANS:意識障害、言葉の障害など)といった、特有の副作用に注意が必要です。専門施設での管理が必須です。

二重特異性抗体: CAR-T療法と同様にCRSや神経毒性、そして感染症に注意が必要です。

骨病変治療薬: 顎骨壊死、低カルシウム血症(デノスマブ)など。

治療中は、副作用を早期に発見し、適切に対処していくことが大切です。体調の変化は我慢せず、私たち医療スタッフに伝えてください。

多発性骨髄腫は、診断を聞いた時にはとてもショックが大きいと思いますが、決して希望がない病気ではありません。ここ十数年の治療の進歩は本当に目覚ましく、新しいお薬が次々と登場し、多くの患者さんが病気と長く、そして元気に付き合っていける時代になりました。

治療法は、移植ができるかどうか、病気のリスク、そして再発した時の状況などによって、一人ひとりに合わせた個別化治療が進んでいます。自家移植、分子標的薬、抗体薬、そしてCAR-T療法や二重特異性抗体といった最新の免疫療法まで、たくさんの選択肢があります。骨のケアなど、治療を支えるサポート体制も重要です。

治療は長く続くことが多いですが、皆さんのQOL(生活の質)をできるだけ保ちながら、病気と上手に付き合っていくお手伝いをすることが、私たちの目標です。そのためにも、ご自身の病気や治療についてよく理解し、担当の先生と何でも話し合える関係を築いてくださいね。

長い経過の中で、不安になったり、心配になったりすることもあると思います。そんな時は、どうぞ一人で抱え込まず、私たち看護師や医師、ご家族など、周りの人に頼ってくださいね。皆さんが安心して、自分らしい生活を続けながら治療に取り組めるよう、私たちも精一杯サポートさせていただきます。

この記事は、診療ガイドラインの情報を分かりやすくお伝えするために作成しました。

医学的なアドバイスをするものではありませんし、特定の治療法をお勧めするものでもありません。治療に関する最終的な決定は、必ず担当の医師とよくご相談の上でなさってくださいね!

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