骨髄腫

【論文解説】再発・難治の多発性骨髄腫に新展開!トアルクエタマブ+テクリスタマブ併用療法って?(RedirecTT-1試験)

1. はじめに

こんにちは。血液内科で看護師をしているエリです。
多発性骨髄腫(MM)の治療、本当にお疲れ様です。治療を続けていく中で、残念ながら病気が再発してしまったり、これまで効いていたお薬が効きにくくなってしまったり(難治性)、次の治療法はどうしようかと、大きな不安を感じていらっしゃる方もいらっしゃると思います。ご家族の皆さんも、心を痛め、一緒に悩んでいらっしゃることでしょう。

今回の解説は、まさにそのような、これまでの主な治療薬(免疫調節薬、プロテアソーム阻害薬、抗CD38抗体薬の3種類)が効きにくくなった、再発・難治性の多発性骨髄腫の患者さんを対象に、新しいタイプの免疫療法薬である「二重特異性抗体」を2種類同時に使う、という治療法の効果と安全性を調べたRedirecTT-1という臨床試験の論文を参考にしています。(※今回ご紹介する薬剤のうち、トアルクエタマブ(talquetamab)は 2025年 4月時点で 国内未承認の薬剤です。)

出典:Cohen YC, Magen H, Gatt M, et al. Talquetamab plus Teclistamab in Relapsed or Refractory Multiple Myeloma. N Engl J Med. 2025 Jan 9;392(2):138-149.

今回は、この新しい併用療法が、治療選択肢が限られてきた患者さんにとって新たな希望となり得るのか、どんな効果が期待でき、どのような点に注意が必要なのかを、できるだけ分かりやすくお伝えしたいと思います。

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多発性骨髄腫の治療は、新しいお薬の登場で大きく進歩しましたが、残念ながら多くの場合、治療を繰り返すうちに病気が再発してしまいます。そして、治療を重ねるうちに、主要な3つのタイプのお薬グループ、

  1. 免疫調節薬(レナリドミド(製品名:レブラミド)、ポマリドミド(製品名:ポマリスト)など)
  2. プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブ(製品名:ベルケイド)、カルフィルゾミブ(製品名:カイプロリス)など)
  3. 抗CD38抗体薬(ダラツムマブ(製品名:ダラキューロ)、イサツキシマブ(製品名:サークリサ)など)

これら全てが効きにくくなってしまう状態(3クラス抵抗性)になることがあります。こうなると、次の治療の選択肢が非常に限られ、厳しい状況になることが課題でした。

そこで近年、大きな期待を集めているのが「二重特異性抗体」という新しいタイプのお薬です。これは、患者さん自身の免疫細胞(T細胞)の力を利用してがん細胞を攻撃する免疫療法の一つです。

このお薬は、まるで両手に違うものを持てるように、2つの異なる「腕」を持っています。片方の腕で骨髄腫細胞の表面にある特定の目印(ターゲット)を、もう片方の腕でT細胞の表面にあるCD3という目印を同時に掴みます。そうすることで、T細胞を骨髄腫細胞のすぐそばに引き寄せて活性化させ、「ここに敵がいるよ!」と教えて、T細胞に骨髄腫細胞を攻撃させる働きをします。

今回の研究で使われたのは、以下の2種類の二重特異性抗体です。どちらもすでに、それぞれ単独で再発・難治性の多発性骨髄腫に対する治療薬として、日本でも承認されています。

  • トアルクエタマブ: 骨髄腫細胞の GPRC5D という目印をターゲットにします。皮下注射のお薬です。
  • テクリスタマブ(製品名: テクベイリ): 骨髄腫細胞の BCMA という、CAR-T療法でも標的とされる有名な目印をターゲットにします。こちらも皮下注射のお薬です。

骨髄腫細胞は、必ずしも全ての細胞が同じ目印(GPRC5DやBCMA)を持っているわけではなく、多様性があります。また、治療を続けるうちに、標的となる目印を失って薬から逃れようとすることもあります(抗原逃避)。

そこで、この研究では、異なる目印(GPRC5DとBCMA)をターゲットにする2種類の二重特異性抗体、トアルクエタマブ と テクリスタマブ(テクベイリ)を 同時に使う ことで、

と考え、その 安全性(どんな副作用が、どれくらい起こるのか)有効性(どれくらい効くのか) を確かめるために行われました。これは、この2剤併用療法の効果と安全性を評価した、初めての臨床試験(第1b/2相試験)の報告になります。

3クラス抵抗性という、非常に治療が難しい状態の患者さんたち(94人)を対象に行われたこの試験の結果、有望な効果と、注意すべき安全性情報が示されました。

まず驚いたのは、その効果の高さです。推奨される投与量で治療を受けた患者さんでは、80% もの方で治療効果(部分奏効以上)が見られました!さらに、そのうち 52% もの方が、骨髄腫細胞が検査で検出できないレベルになる「完全寛解(CR)以上」という、非常に深い効果を達成できたのです。これは、各薬剤単独での効果と比べても、非常に高い数字と言えます。

骨髄の外に病変ができる「髄外病変」は、一般的に治療が効きにくく予後が厳しいとされていますが、この併用療法は、髄外病変を持つ患者さんでも約6割の方に効果が見られました。

効果の持続性も期待できそうです。治療開始から1年半後でも、推奨用量で治療を受けた方の約86%が治療効果を維持していました。また、病気が進行せずにいられた期間(PFS)も、1年半時点で約70%と良好でした。

一方で、安全性については注意が必要です。2つのお薬を併用することで、やはり副作用は単独で使う場合よりも強く出る傾向がありました。

  • サイトカイン放出症候群(CRS): 二重特異性抗体に特徴的な副作用で、発熱や血圧低下などが起こります。この試験でも多くの患者さん(79%)で見られましたが、ほとんどは軽度から中等度で、主に治療開始初期に集中していました。重症例は稀でした。
  • 血液系の副作用: 好中球減少(白血球の一種が減る)、貧血、血小板減少なども高頻度に見られました。
  • タルケタマブ特有の副作用: 味覚の変化、皮膚や爪の変化も多く見られました(多くは軽度)。
  • 最も重要な注意点「感染症」: この併用療法で最も懸念されるのが 感染症 です。グレード3以上(入院が必要になるようなレベル)の感染症が 64% もの患者さんで見られ、これはタルケタマブやテクリスタマブを単独で使った場合よりも明らかに高い頻度でした。残念ながら、治療に関連して亡くなられた方も複数いらっしゃり、その多くが感染症が原因でした。

このトアルクエタマブ+テクリスタマブ併用療法を受ける上で、特に注意すべき点をまとめます。

これが最も重要です。治療中は免疫力が低下しやすいため、予防的な抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬の使用や、免疫グロブリン(IVIG)の補充などをしっかり行う必要があります。手洗いやうがい、人混みを避けるなど、日常生活での感染予防も徹底しましょう。発熱など感染症を疑う症状が出たら、すぐに医療機関に連絡することが大切です。

CRS(サイトカイン放出症候群)は頻度が高いですが、多くは管理可能です。まれに起こるICANS(神経系の副作用)にも注意が必要です。治療初期は特に慎重な観察が必要です。

血液検査をこまめに行い、好中球減少などに対してはG-CSF製剤(白血球を増やす注射)を使うなどの対応が必要です。

味覚の変化(食事が楽しめなくなることも)、皮膚や爪のトラブルに対しては、保湿ケアや対症療法を行います。

単剤よりも副作用(特に感染症)のリスクが高まることを理解し、体調変化に注意することが大切です

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治療を重ねて、もう打つ手がないのでは…と不安に思っていらっしゃる再発・難治性の多発性骨髄腫の患者さんにとって、今回のトアルクエタマブ と テクリスタマブ(製品名:テクベイリ)の併用療法の研究結果は、大きな希望となる可能性を秘めていると思います。

異なる2つの目印(GPRC5DとBCMA)を同時に狙うことで、非常に高い奏効率、しかも深い寛解が得られ、その効果も長続きする可能性があることが示されました。髄外病変のような難しい病状にも効果が期待できる点も素晴らしいですね。

ただし、その一方で、重い感染症のリスクが単剤療法よりも高まる、という重要な注意点も明らかになりました。この治療を行う場合は、感染症対策をこれまで以上に徹底し、経験豊富な施設で慎重に管理していくことが不可欠になります。

このテクリスタマブ(製品名:テグベイリ)は 2024年12月27日 に 日本国内で承認されていますが、トアルクエタマブ は 2025年4月時点 承認申請中で まだ 国内承認をされていない治療法です。日本人におけるデータも揃え、2024年11月に 申請手続きをしておりますので、今後 が さらに確立されていくことが期待されます。

新しい治療法の開発は、一歩一歩進んでいきます。希望を持って、ご自身の状況に合った最善の治療法について、担当の先生とよく相談し、納得して治療を進めていくことが何よりも大切です。

長いお付き合いになる病気だからこそ、私たち看護師も、皆さんの不安な気持ちに寄り添いながら、治療や生活のサポートをさせていただきます。心配なこと、分からないことは、いつでも私たちに声をかけてくださいね。

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この記事は、医学論文の最新情報を分かりやすくお伝えするために作成しました。

医学的なアドバイスをするものではありませんし、特定の治療法をお勧めするものでもありません。治療に関する最終的な決定は、必ず担当の医師とよくご相談の上でなさってくださいね!

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