骨髄不全

【AIHA(自己免疫性溶血性貧血)と診断された方へ】治療はどう進むの? 看護師と一緒に学ぶ最新ガイドライン(令和4年度改訂版)

こんにちは。血液内科で看護師をしているエリです。
急に貧血が進んだり、黄疸が出たり、だるさが続いたり…「自己免疫性溶血性貧血(AIHA)」と診断され、治療を受けていらっしゃる方、そしてそばで心配されているご家族の皆さん、聞き慣れない病名に戸惑い、不安な気持ちでいらっしゃることと思います。本当にお疲れ様です。

今回は、そのAIHAという病気について、日本の専門家の先生方が最新の知見をまとめて作成された「自己免疫性溶血性貧血診療の参照ガイド 令和4年度改訂版」(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「特発性造血障害に関する調査研究班」作成)の内容を参考に、AIHAがどんな病気なのか、どのように診断され、現在どのような治療法が推奨されているのかを、皆さんに分かりやすくお伝えしたいと思います。

出典: 自己免疫性溶血性貧血診療の参照ガイド 令和4年度改訂版【編集 : 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 特発性造血障害に関する調査研究班】

このガイドラインは、私たち医療者が適切な診断と治療を行うための大切な道しるべです。皆さんの病気への理解を深め、安心して治療に臨むための一助となれば幸いです。

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まず、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)がどんな病気なのか、その基本から見ていきましょう。

本来、体を守るはずの免疫システムが、何らかの理由で自分の赤血球を「敵」と間違えて攻撃してしまう病気です。赤血球の表面にくっつく「自己抗体」というものが作られ、その結果、赤血球が脾臓や肝臓で壊されたり(血管外溶血)、時には血管の中で直接壊されたり(血管内溶血)して、 貧血(溶血性貧血) が起こります。

赤血球にくっつく自己抗体が 体温に近い温度(温式)でよく働くか、冷たい温度(冷式)でよく働くかによって、主に以下のタイプに分けられます。タイプによって症状や治療法が異なります。

① 温式AIHA (wAIHA): 自己抗体が体温(約37℃)で最もよく反応するタイプ。AIHAの中で最も多い。

② 冷式AIHA: 自己抗体が体温より低い温度でよく反応するタイプ。さらに2つに分けられます。

  • 寒冷凝集素症 (CAD): IgMというタイプの抗体(寒冷凝集素)が原因で、寒くなると赤血球がくっつきやすくなり(凝集)、補体という免疫システムも活性化して溶血が起こります。
  • 発作性寒冷ヘモグロビン尿症 (PCH): IgGというタイプの特殊な抗体(二相性溶血素)が原因で、体が冷えた後に温まると急激な血管内溶血が起こり、赤黒い尿(ヘモグロビン尿)が出ることが特徴です。現在は主に小児に見られます。

③ 混合型AIHA: 温式と冷式の両方のタイプの自己抗体を持つ場合もあります。

AIHAの診断で最も重要な検査が「直接クームス試験(直接抗グロブリン試験)」です。これは、患者さんの赤血球の表面に、自己抗体(IgGなど)や補体(C3dなど)がくっついているかどうかを調べる血液検査です。

  • 温式AIHAでは、主にIgG(±補体)が陽性になります。
  • 冷式AIHA(CADやPCH)では、主に補体(C3d)が陽性になります。 この結果と、他の溶血を示す検査所見(LDH上昇、ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下など)、そして臨床症状を合わせて診断します。(詳しくはガイドラインの診断フローチャート(図1)を参照
  • クームス陰性AIHA?: まれに、AIHAが強く疑われるのに通常の直接クームス試験が陰性の場合があります。これは結合している抗体が少ない場合や、IgA/IgMタイプの抗体が原因の場合があり、より感度の高い検査(ゲルカラム法やFCM法など)が必要になることもあります。

AIHAは原因不明(特発性)の場合もあれば、他の病気(膠原病、リンパ腫、感染症など)や薬剤が原因(続発性)で起こることもあり、病型によって治療法も異なる、少し複雑な病気です。

そのため、専門医の間でも診断や治療方針について迷うことがありました。特に、温式AIHAではステロイド以外の治療選択肢が限られていたり、寒冷凝集素症(CAD)には長らく有効な治療法が少なかったりという課題がありました。

今回改訂された「自己免疫性溶血性貧血診療の参照ガイド 2023」は、AIHAの診断基準や病型分類を明確し、これまでの研究で得られた科学的根拠(エビデンス)に基づいて、それぞれの病型に対する治療法の推奨度(どれくらい強く勧められるか)を示し、特に近年登場した新しい治療薬(CADに対するスチムリマブなど)や、リツキシマブなどの位置づけを整理することで、全国の医療者が標準的で質の高いAIHA診療を行えるようにする ことを目的としています。

AIHAの中で最も多い「温式AIHA」の治療について、ガイドラインが推奨するポイントを見てみましょう。

貧血による症状がある場合、まず最初に行われる治療(一次治療)は、副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロンなど) の内服です(推奨度 2A)。 プレドニゾロン1mg/kg/日程度から開始し、効果を見ながら(通常2~4週間)、副作用を避けるために徐々に量を減らしていきます。 約8割の患者さんで効果が見られますが、完全に中止できるのは3割程度とされ、長期服用が必要になることも少なくありません。長期服用では様々な副作用(感染症、糖尿病、骨粗鬆症、ムーンフェイスなど)に注意が必要です。

ステロイドの効果が不十分だったり、減量すると再発してしまったり、副作用で続けられなかったりする場合(ステロイド不応・不耐)には、二次治療を考えます。

  • リツキシマブ(製品名:リツキサン など): B細胞を標的とする抗体薬です。複数の研究で有効性が示されており、海外のガイドラインでも推奨されています(推奨度 2A ※ただしAIHAへの保険適用はありません)。奏効率は約8割と高いですが、効果が出るまで数週間かかり、再発することもあります。
  • 脾臓摘出術(脾摘): 脾臓は赤血球が壊される主要な場所の一つなので、脾臓を摘出する手術も有効な選択肢です。約7割で効果が見られ、約4割で完全寛解が得られるとされますが、手術のリスクや、脾摘後の重症感染症、血栓症のリスクがあります(推奨度 2B)。最近はリツキシマブが優先される傾向にあります。
  • その他の免疫抑制薬: アザチオプリン(製品名:イムラン など)、シクロスポリン(製品名:ネオーラル など)、ミコフェノール酸モフェチル(製品名:セルセプト など)といった免疫抑制薬も使われることがありますが、いずれもAIHAへの保険適用はなく、有効性に関する質の高いデータも少ないため、推奨度は低くなります(推奨度 2B)。

最近の研究では、一次治療のステロイドに早期からリツキシマブを併用することで、治療効果を高め、ステロイドの減量を早められる可能性が示唆されています。重症例やステロイドの副作用が心配な場合には、検討しても良い選択肢とされています(推奨度 2B ※こちらについても、2025年4月時点で 保険適用となってはいません)。

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次に 冷たい温度で反応する抗体が原因となる「冷式AIHA」の治療です。

寒冷回避が基本!:まず最も大切なのは、体を冷やさないこと、特に手足などの末端を保温することです(推奨度 2A)。これだけで症状がコントロールできる場合もあります。

ステロイドは推奨されない: 温式AIHAとは異なり、CADに対してステロイドの効果は乏しく、副作用のリスクを考えると推奨されていません。

輸血が必要な場合: 輸血が必要な場合は、血液を体温程度に温めてから投与することが重要です。

薬物治療: 寒冷回避だけでは貧血や末梢循環障害(手足の冷感、チアノーゼなど)が改善しない中等症以上の場合は、薬物治療を検討します。

スチムリマブ(製品名: エジャイモ︎ ): 補体系のC1sという部分を阻害する新しい注射薬です。CADにおける溶血(貧血)を速やかに改善する効果が臨床試験で証明され、日本でも承認されました(推奨度 2B)。ただし、リンパ腫のような基礎疾患を治す薬ではなく、末梢循環障害への効果は限定的です。

リツキシマブ(製品名:リツキサン など): CADの原因となる異常なB細胞を標的とする治療として、リツキシマブ単独、あるいは化学療法(ベンダムスチン(製品名:トレアキシン など)やフルダラビン)との併用療法が有効な場合があります(推奨度 2B ※ただしCADへの保険適用はありません)。特にベンダムスチンとの併用は高い効果と持続性が報告されていますが、副作用にも注意が必要です。

その他の薬剤: ボルテゾミブ(製品名:ベルケイド)、イブルチニブ(製品名:イムブルビカ)、ダラツムマブ(製品名:ダラキューロ)なども有効であったという報告がありますが、まだデータは少なく、推奨度は低くなります(推奨度 2B ※保険適用外)。

現在は主に小児の感染症後に見られ、多くは自然に治癒します。溶血発作が激しい場合は、保温と輸血などの支持療法を行います。まれに、ステロイドが有効な場合もあります。

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AIHAの治療中に貧血が進行し、生命に危険が及ぶような場合には輸血が必要になりますが、注意が必要です。

適応は慎重に: 自己抗体が存在するため、輸血した赤血球もすぐに壊されてしまう(溶血反応)リスクがあります。そのため、輸血は生命を脅かすような高度な貧血の場合に限定すべきとされています(推奨度 2B)。

適合血の選択: 患者さんの血液中には自己抗体があるため、通常の交差適合試験では「適合血なし」と判定されることが多いです。しかし、緊急時にはABO・RhD血液型が適合していれば輸血を行うことがあります。時間が許せば、患者さんの血液から自己抗体を取り除くなどの特殊な検査を行い、隠れているかもしれない「同種抗体」(他人由来の赤血球に対する抗体)の有無を確認し、できるだけ安全な血液製剤を選択します。

輸血速度: 溶血反応のリスクを考慮し、ゆっくり投与することが推奨されます。

CAD/PCHの場合: 冷えないように血液を温めて投与することが重要です。

どんな治療にも、残念ながら副作用の可能性があります。ガイドラインでも触れられている主な副作用と注意点をまとめますね。

  • ステロイド: 感染症、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、精神症状、ムーンフェイスなど、長期使用による様々な副作用。
  • リツキシマブ: 点滴中のアレルギー反応(インフュージョンリアクション)、感染症(特にB型肝炎再活性化)。
  • スチムリマブ: 感染症(特に髄膜炎菌など莢膜を持つ細菌)。
  • 脾臓摘出術: 手術自体のリスク、術後の重症感染症リスク、血栓症リスク。
  • 免疫抑制薬: それぞれの薬剤に応じた骨髄抑制、感染症、臓器障害など。
  • 輸血: 溶血反応、アレルギー反応、感染症、鉄過剰症など。

治療中はこれらの副作用に注意し、早期発見・早期対応が重要です。定期的な検査や診察、そして患者さん自身の体調変化への気づきが大切になります。

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自己免疫性溶血性貧血(AIHA)は、温式や冷式などタイプによって治療法が大きく異なる、少し複雑な病気です。でも、診断法が進歩し、新しい治療薬も登場するなど、治療は着実に進歩しています。特に、これまで治療が難しかった寒冷凝集素症(CAD)に対して、スチムリマブ(製品名:エジャイモ®︎)という新しい選択肢が登場したことは大きな希望ですね。

今回の「AIHA診療の参照ガイド2023」は、そうした最新の情報を整理し、科学的根拠に基づいた標準的な考え方を示してくれています。このガイドラインを参考に、担当の先生は皆さんの病状や体の状態、そして生活に合わせて、最適な治療法を提案してくださるはずです。

大切なのは、ご自身の病気や治療法について正しく理解し、分からないことや不安なことを、遠慮なく主治医の先生や私たち看護師に相談することです。治療は時に長く、大変なこともあるかもしれませんが、皆さんが安心して治療を受け、より良い生活を送れるよう、私たち医療チームは全力でサポートさせていただきます。一緒に頑張っていきましょうね!

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この記事は、診療ガイドラインの情報を分かりやすくお伝えするために作成しました。

医学的なアドバイスをするものではありませんし、特定の治療法をお勧めするものでもありません。治療に関する最終的な決定は、必ず担当の医師とよくご相談の上でなさってくださいね!

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