凝固性疾患

【論文解説】血友病Aの手術を乗り越える:イスパロクト使用時のリアルなデータ|(pathfinder試験)

こんにちは。血液内科で看護師をしているエリです!
血友病Aの患者さん、そしてご家族の皆さん、日々の治療、お疲れ様です。血友病をお持ちだと、もし手術が必要になった時、「出血は大丈夫だろうか…」「手術は無事に終わるだろうか…」と、人一倍大きな不安を感じてしまいますよね。

今回の解説は、長時間作用型の第VIII因子製剤のひとつである「ツロクトコグ アルファ ペゴル(製品名: イスパロクト)」を使っている患者さんが手術を受けた際に、そのお薬でちゃんと出血をコントロールできたのか、安全性はどうだったのかを詳しく調べた臨床試験(pathfinder 3試験とpathfinder 5試験)の報告 を参考にしています

出典:Oldenburg J, Windyga J, Hampton K, et al. Turoctocog alfa pegol provides effective management for major and minor surgical procedures in patients across all age groups with severe haemophilia A: Full data set from the pathfinder 3 and 5 phase III trials. Haemophilia. 2020 May;26(3):e88-e96.

以前、このブログで血友病治療の新しい流れとして、長時間作用型(EHL)製剤や非補充療法薬が登場しているお話をしましたが、 今回は広く使われているEHL製剤の一つであるイスパロクトが、手術という大切な場面でどのような結果だったのか、皆さんの安心につながるような情報をお届けできればと思います。

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まず、大切なこととして、血友病Aの患者さんでも、今は 適切な止血管理を行えば、安全に様々な手術を受けられる時代になっている ということです。

ただし、手術はどうしても出血を伴いますので、手術中や手術後に予期せぬ出血が起こらないように、また出血してもすぐに止められるように、不足している第VIII因子(FVIII)を、手術前から手術後しばらくの間、計画的に補充して、血液がしっかり固まる状態を維持する ことが非常に重要になります。

今回ご紹介する臨床試験で使われたのは、ツロクトコグ アルファ ペゴル(製品名:イスパロクト)というお薬です。

これは、遺伝子組換え技術で作られた第VIII因子製剤に、PEG(ペグ)という特殊な物質をくっつけることで、体の中で分解されにくくし、効果がより長く続くように改良された「長時間作用型(EHL)製剤」の一つです。

従来の標準的な第VIII因子製剤よりも半減期が長い(約1.6倍)ため、普段の定期補充療法で 注射の回数を減らせる可能性があります。

これまでの臨床試験で、普段の出血予防や、出血が起こった時の治療に対しても、有効で安全に使えることが確認されています。

では、この長時間作用型のイスパロクトが、普段の生活だけでなく、手術という特に出血リスクが高い状況でも、ちゃんと力を発揮してくれるのでしょうか? それを確かめるために、この研究が行われました。

イスパロクト の臨床試験(pathfinder 3試験とpathfinder 5試験)に参加していた重症血友病Aの患者さん(12歳以上の大人・青年と、12歳未満のお子さん)の中で、試験期間中に何らかの手術を受けた方々 を対象に 手術の際に、イスパロクト を使って出血管理を行った結果、手術中の出血をきちんとコントロールできたか?(止血効果)、予期せぬ出血や合併症は起こらなかったか?(安全性、特にインヒビター発生)、どれくらいの量や回数のお薬を使ったか? などを詳しく調査・報告することでした。

pathfinder 3試験の初期データは以前にも報告されていましたが、今回はより多くの手術症例(大きな手術31件追加)と、お子さんの小さな手術のデータも含めた、完全版の報告となります。

結果は非常に良好で、イスパロクト が手術時にも頼りになるお薬であることが示されました!

大人や青年が受けた大きな手術(関節の手術や胆のう摘出など、合計49件)において、イスパロクト を使った手術中の止血効果は、担当した医師や外科医によって、96%近く(49件中47件)で「Excellent(極めて有効)」または「Good(有効)」と高く評価されました! 残りの2件も「Moderate(中等度)」の評価で、薬の変更などが必要になるような大きな問題はありませんでした。これはとても安心できる結果ですね。

お子さんが受けた小さな手術(歯の治療や中心静脈カテーテルを入れる処置など、合計45件)も、すべて合併症なく無事に実施できたとのことです。お子さんの手術でも安心して使えそうですね。

大きな手術の後、追加で治療が必要になるような出血が起こったのは、49件の手術のうちわずか4件でした。これらの出血も、イスパロクト の追加投与で適切に対応できたそうです。

手術に関連して、特に心配されるような新しい安全性の問題は報告されませんでした。血栓症(血の塊ができること)もありませんでした。 そして、血友病治療で一番気になる合併症の一つである第VIII因子インヒビター(お薬の効果を邪魔する抗体)の発生も、手術を受けた患者さんの中では一人も報告されませんでした!

大きな手術当日でも、平均すると1日に2回程度の注射で管理できていたようです。術後の管理においても、従来の標準的な第VIII因子製剤を使う場合よりも、注射の回数を減らせる可能性があるかもしれません。(※ただし、これは手術の種類や患者さん個々の状態によって異なります)

この研究では、手術という特別な状況下での イスパロクト の安全性が確認されました。

  • 主な副作用: 手術に関連した重篤な副作用は報告されていません。一般的な副作用としては、他の第VIII因子製剤と同様に、頭痛や関節痛などが考えられますが、手術との関連で特に問題となるものは指摘されていません。
  • インヒビター: 繰り返しになりますが、この研究で手術を受けた患者さんにおいて、インヒビターの発生は報告されませんでした。これは非常に重要なポイントです。
  • ペグ化製剤について: イスパロクト はPEG(ペグ)という物質を使って効果時間を長くしていますが、このPEGに対するアレルギーや抗体なども理論的には考えられます。しかし、これまでのところ、この試験を含め大きな問題とはなっていないようです。
  • 手術時の管理: どんな第VIII因子製剤を使う場合でも、手術時の止血管理は非常に重要です。血友病を専門とする医師、手術を担当する外科医、麻酔科医などがしっかりと連携を取り、患者さん一人ひとりに合わせた詳細な投与計画(いつ、どれくらいの量を、何回注射するか、血液中の因子レベルをどうモニタリングするかなど)を立てて、慎重に進めていく必要があります。

重篤な副作用やインヒビターの発生もなかったという事実は、イスパロクト で治療中の患者さんがこれから手術を受ける場合に、大きな安心材料となるのではないでしょうか。

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血友病Aの患者さんにとって、手術は大きな不安を伴うものだと思います。でも、今回のpathfinder試験の詳細な分析結果は、長時間作用型(EHL)製剤であるツロクトコグ アルファ ペゴル(製品名:イスパロクト)が、手術という出血リスクの高い場面においても、安全かつ非常に効果的に出血をコントロールできる ことを、大人から子供まで幅広い年齢層で示してくれました。

血友病治療は、新しいお薬の開発によって、より安全に、より効果的に、そして患者さんの生活の質を高める方向へと、確実に進歩しています。手術が必要になった場合でも、過度に心配せず、まずは担当の先生方とよく話し合ってください。

血友病治療は、本当に目覚ましい進歩を遂げています。
私たち医療チームが全力でサポートしますので、不安なこと、分からないことは、いつでも私たち看護師にも相談してくださいね。皆さんが、より負担なく、より安心して、より自分らしい生活を送れるようになることを、心から願っています。

この記事は、医療論文の情報を分かりやすくお伝えするために作成しました。

医学的なアドバイスをするものではありませんし、特定の治療法をお勧めするものでもありません。治療に関する最終的な決定は、必ず担当の医師とよくご相談の上でなさってくださいね!

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