1. はじめに
こんにちは。血液内科で看護師をしているエリです。
骨髄異形成症候群(こつずいいけいせいしょうこうぐん)、略してMDSと診断され、聞き慣れない病名に戸惑ったり、今後のことが心配になったりしていらっしゃるかもしれませんね。ご家族の皆さんも、どのようにサポートしていけばよいか、不安なお気持ちでいらっしゃることでしょう。
今回の解説は、日本の血液内科の先生方が作成された 造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版) の 骨髄異形成症候群 の部分を参考にしています。
出典:日本血液学会 編 造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版)【編集:日本血液学会】
MDSは、実は一つの病気ではなく、色々なタイプが含まれる「症候群」なんです。
そして、そのタイプや病気の進行リスクによって、治療の方針も大きく変わってきます。今日は、このMDSという病気について、どんな特徴があり、どのようにリスクを評価し、そしてリスクに応じてどんな治療法が考えられるのか、最新のガイドラインをもとに、できるだけ分かりやすくお伝えしたいと思います。皆さんの病気への理解を深め、治療に向き合う上での助けになれば嬉しいです。
2. 骨髄異形成症候群(MDS)ってどんな病気? ~血液の工場(骨髄)の不調~
MDSは、血液を作り出す「血液の工場」である骨髄の中で、血液細胞のもとになる細胞(造血幹細胞)に異常が起こり、正常な血液細胞(赤血球、白血球、血小板)がうまく作られなくなってしまう病気のグループです。
主な特徴
- 血球減少: 作られる血液細胞が減るため、貧血(赤血球減少)、感染しやすくなる(白血球/好中球減少)、出血しやすくなる(血小板減少)といった症状が出ます。
- 異形成: 作られる血液細胞の形がおかしくなってしまう(異形成と言います)のも特徴です。
- 無効造血: 骨髄の中では血液細胞を作ろうと頑張っているのに、うまく成熟できずに壊れてしまい、結果的に血液中の血球が減ってしまう状態です。
- 白血病への移行リスク: MDSは、病気が進行すると急性骨髄性白血病(AML)という、より進行の早い白血病に移行してしまうリスクがあります
原因と好発期
MDSは、比較的高齢の方に発症しやすい病気です。原因として、加齢も関係しますが、多くの場合、造血幹細胞に染色体の異常や様々な遺伝子の変異(キズ)が積み重なることも 要因の一つ と考えられています。
3. MDSの診断と予後予測 ~一人ひとり違う病状~ (CQ1)
MDSの診断と、今後の治療方針を決めるためには、まず詳しい検査が必要です。
診断
血液検査で血球減少を確認し、骨髄検査(骨髄穿刺・生検)で骨髄の中の細胞の数や形(異形成の程度、芽球という未熟な細胞の割合など)、そして染色体に異常がないかを調べます。これらの結果をもとに、WHO分類などを使って、どのタイプのMDSかを診断します。
予後予測(リスク分類)
MDSはタイプだけでなく、患者さん一人ひとりで病気の進行スピードや白血病への移行リスクが大きく異なります。そのため、治療方針を決める上で、予後予測スコアを用いてリスクを評価することが非常に重要になります。現在、国際的に最も広く使われているのが IPSS-R(改訂国際予後スコアリングシステム) です。
- IPSS-R: 骨髄中の芽球の割合、血球減少の程度、染色体異常の種類を点数化し、合計点で「Very Low」から「Very High」までの5段階にリスクを分類します。
- 低リスク vs 高リスク: 臨床的には、このIPSS-Rスコアなどを参考に、大きく「低リスクグループ」と「高リスクグループ」に分けて治療方針を考えることが多いです(目安としてIPSS-Rスコア3.5点が境目とされることがあります)。
4. 治療の基本方針:リスクに応じたアプローチ
MDSの治療は、まず基本的な支持療法(体調管理や合併症対策)を行いながら、先ほどのリスク分類(低リスクか高リスクか)に応じて、より積極的な治療を行うかどうかを決めていきます。
支持療法(全患者さん対象)
定期的な診察・検査による経過観察、日常生活のサポート、貧血や血小板減少に対する輸血療法、感染症の予防や治療などが基本となります。
低リスクMDS
主な目標は、血球減少による症状(貧血によるだるさなど)を和らげ、生活の質(QOL)を維持することです。
高リスクMDS
主な目標は、急性白血病への移行をできるだけ遅らせ、生存期間を延ばすことです。可能であれば治癒(病気を完全に治すこと)を目指します
では、それぞれの治療法について見ていきましょう。
5.【低リスクMDSの治療】~症状を和らげ、生活の質を保つ~
低リスクMDSで、特に症状がなく日常生活に支障がない場合は、特別な治療はせずに注意深く 経過観察 をします。血球減少による症状が出てきた場合に、以下のような治療を検討します。
貧血に対する治療:
- 輸血と鉄過剰症対策 (CQ2): 貧血が進むと赤血球輸血が必要になります。しかし、輸血を繰り返すと体の中に鉄が溜まりすぎてしまい(鉄過剰症)、心臓や肝臓などに負担がかかることがあります。そのため、長期的な輸血が見込まれる場合は、血清フェリチンという値などを目安に、鉄キレート薬 というお薬(飲み薬の デフェラシロクス(製品名:エクジェイド, ジャドニュ) や、注射薬の デフェロキサミン(製品名:デスフェラール) などがあります)を使って、体に溜まった鉄を排出する治療を行うことが勧められます。
- ESA製剤 (CQ4): 体の中で赤血球を作るのを促すホルモン(エリスロポエチン)の量が少ない患者さんでは、ESA製剤 という注射薬(ダルベポエチンアルファ(製品名:ネスプなど))を使うことで、貧血が改善し、輸血の量を減らせる可能性があります。(※エポエチンアルファ製剤は日本ではMDSに対する保険適用はありません)
- ルスパテルセプト (CQ4): MDSの中でも環状鉄芽球(RS)を伴うタイプ(MDS-RS)で、ESA製剤が効かない、あるいは使えない場合の貧血に対して、ルスパテルセプト(製品名:レブロジル) という新しい注射薬が有効であることが示され、推奨されています。赤血球の成熟を助ける働きがあります。
- レナリドミド (CQ6): 5q-(ごきゅーまいなす)症候群 という、5番染色体の一部が欠けている特殊なタイプのMDSで、輸血が必要な貧血がある場合には、レナリドミド(製品名:レブラミド) という飲み薬が非常によく効き、推奨されています。 (※del(5q)を伴わない低リスクMDSに対するレナリドミドは、日本では保険適用外です。)
血小板減少に対する治療 (CQ4)
血小板を増やすお薬として、トロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)であるロミプロスチム(製品名:ロミプレート)やエルトロンボパグ(製品名:レボレード)が、出血を減らす効果が期待されていますが、(※MDSに対しては日本では保険適用外です)。白血病化への影響もまだ不明な点があります。
免疫抑制療法 (CQ3)
まれですが、特に比較的若い方や、骨髄の細胞密度が低い(低形成)タイプのMDSでは、免疫の異常が関わっていることがあります。そのような場合には、ATG(抗胸腺細胞グロブリン)やシクロスポリン(製品名:ネオーラルなど)といった免疫を抑える治療で血球数が回復することがありますが、(※MDSに対しては日本では保険適用外です)。
その他の治療法 (CQ5)
以前は蛋白同化ステロイドやビタミンD、ビタミンKなども使われることがありましたが、効果は限定的であり、現在では標準的な治療とは考えられていません。(※蛋白同化ステロイドやビタミン剤の多くはMDSに対して保険適用外か、適応が限定的です。)
アザシチジン (CQ7)
低リスクMDSでも、輸血が多いなど、少し予後が心配される一部の患者さんでは、アザシチジン(製品名:ビダーザ)というお薬(高リスクMDSの標準治療薬です)を使うことで、血球数が改善することがありますが、生存期間を延ばす効果ははっきりしておらず、第一選択とはされていません。
6.【高リスクMDSの治療】~白血病化を抑え、生存期間を延ばす~
高リスクMDSは、白血病に移行するリスクが高く 予後も良くないため、より積極的な治療が必要になります。
同種造血幹細胞移植 (CQ8, 9)
現時点でMDSを 治癒させる可能性がある唯一の治療法 です。年齢(おおむね70歳前後までが目安)や全身状態、他に大きな病気がないこと、そしてHLAという白血球の型が合うドナーさんがいること、などの条件を満たせば、速やかに同種移植を行うことが強く推奨されます。ドナーさんは、兄弟姉妹、骨髄バンクの提供者、臍帯血、あるいはHLAの型が半分だけ合う血縁者(ハプロ移植)などから探します。高齢の方などでは、体への負担を減らした減量前処置(RIC)という方法で移植を行うこともあります。
アザシチジン(AZA)(CQ10)
同種移植が適さない(年齢や合併症、ドナーさんがいないなど)高リスクMDS患者さんの 標準治療 となるのが、アザシチジン(製品名:ビダーザ) というお薬です。これは皮下注射または点滴で投与するお薬(脱メチル化薬という種類です)で、白血病への移行を遅らせ、生存期間を延ばす効果が証明されています。通常、効果が見られる限り治療を続けます。移植を行う前の「橋渡し」として使われることもありますが、その有効性はまだ確立されていません。
レナリドミド (CQ11)
5q-症候群の高リスクMDSの場合には、アザシチジンが効かない、あるいは副作用で使えない場合に、レナリドミド(製品名:レブラミド)を考慮することがあります。ただし、アザシチジンや化学療法と併用することは推奨されていません。
化学療法 (CQ12)
高リスクMDSに対する化学療法(抗がん剤治療)は、生存期間を延ばすという明確な証拠がなく、第一選択とはされていません。アザシチジンが使えない場合や、移植前の橋渡し治療として、急性骨髄性白血病(AML)に準じた強力な化学療法や、低用量の化学療法が選択されることがありますが、その適応は個々の患者さんの状況に応じて慎重に判断されます。
7. 副作用/注意点について
MDSの治療にも様々な副作用や注意点があります。
- 輸血: 頻回になると鉄過剰症のリスクがあります。アレルギー反応や感染症のリスクもゼロではありません。
- 鉄キレート薬: 吐き気や下痢などの消化器症状、腎臓や肝臓への影響、まれに聴力や視力への影響が出ることがあります。定期的な検査が必要です。
- ESA製剤: 血圧が上がったり、まれに血栓症のリスクが上がったりすることがあります。
- ルスパテルセプト: だるさ、下痢、めまいなどが報告されています。
- レナリドミド: 骨髄抑制(特に好中球や血小板が減る)、血栓症(予防が必要な場合があります)、眠気、便秘、皮疹など。胎児への影響(催奇形性)があるため、妊娠可能な方は厳格な管理が必要です。
- アザシチジン: 骨髄抑制(血球減少)、吐き気、便秘や下痢、倦怠感、注射した場所の反応(赤み、痛みなど)。
- 免疫抑制療法: 感染症にかかりやすくなります。腎機能障害(シクロスポリン)など。
- 同種移植: 感染症、GVHD(移植片対宿主病)、拒絶反応、臓器障害など、重い合併症のリスクを伴います。専門的な管理が必要です。
治療中は副作用に注意し、予防策や症状を和らげるケアを行います。体調の変化は我慢せず、早めに教えてくださいね!
8. まとめ(看護師からのメッセージ)
骨髄異形成症候群(MDS)は、ひとくくりにはできない、とても多様な病気の集まりです。だからこそ、最初にしっかり検査をして、ご自身のMDSのタイプとリスクを正確に知ることが、治療方針を決める上でとても大切になります。
低リスクの場合は、急いで治療を始める必要はなく、貧血などの症状とうまく付き合いながら、生活の質を保つことが目標になります。輸血やESA製剤、ルスパテルセプト、そして鉄キレート療法などがその助けになります。5q-症候群にはレナリドミドという特効薬もあります。
高リスクの場合は、白血病への進行を抑え、少しでも長く元気に過ごすこと、そして可能であれば同種移植による治癒を目指すことが目標になります。アザシチジンという標準治療薬もあります。
治療法は複雑に感じるかもしれませんが、それぞれの患者さんの状態に合わせて、最適な方法を主治医の先生と一緒に相談しながら決めていくことになります。
分からないこと、不安なこと、治療に対するご希望など、どんなことでも私たち医療チームに遠慮なく伝えてください。皆さんが安心して治療を受けられるよう、精一杯サポートさせていただきます。一緒に頑張っていきましょうね。
9. 注意事項
この記事は、診療ガイドラインの情報を分かりやすくお伝えするために作成しました。
医学的なアドバイスをするものではありませんし、特定の治療法をお勧めするものでもありません。治療に関する最終的な決定は、必ず担当の医師とよくご相談の上でなさってくださいね!








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