骨髄不全

【論文解説】PNHへの新薬「エムパベリ」の日本人への効果を PEGASUS試験 の結果から解説します!

1. はじめに

こんにちは。血液内科で看護師をしているエリです。
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)と診断され、治療を続けていらっしゃる皆さん、そして日々サポートされているご家族の皆さん、希少な病気と向き合い、治療を続ける中で、様々なご不安やご苦労があることと思います。本当にお疲れ様です。

今回は、PNHに対する新しいタイプのお薬、「ペグセタコプラン(製品名: エムパベリ®︎皮下注)」について、特に私たち日本人患者さんにおける効果と安全性を詳しく見た臨床試験(PEGASUS試験の日本人サブグループ解析)の結果を報告した論文をもとに、皆さんに分かりやすくお伝えしたいと思います。

出典: Hisakazu Nishimori, et al. Efficacy, Safety, and Quality of Life of Pegcetacoplan in Japanese Patients with Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria Treated within the Phase 3 PEGASUS Trial. Acta Haematol. 2024 Apr 17;148(1):22-35.

今回の報告は、ペグセタコプラン(エムパベリ︎)が、既存の治療薬(エクリズマブ)よりもヘモグロビン値を改善させたというPEGASUS試験全体の大きな結果を受けて、「その結果は、私たち日本人にも当てはまるの?」という、とても大切な疑問に答えるための報告です。

いろんなお薬や治療法が出てきますが、一緒に学んでいきましょうね。

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まず、PNHについて簡単におさらいしましょう。

血液細胞を作る過程で起こる遺伝子(PIGA遺伝子)のキズが原因で、赤血球などが、体を守るはずの免疫システムの一部である「補体(ほたい)」というものから攻撃を受けて壊されやすくなってしまう、国の指定難病にもなっているまれな血液の病気です。

赤血球が壊れる(溶血)ことで、貧血(だるさ、息切れ)、黄疸、赤褐色尿(ヘモグロビン尿)、そして血栓症(血管が詰まること)などを引き起こします。特に血栓症は命に関わることもある重い合併症です。

長い間、PNH治療の中心は、補体系の最終段階に近い「C5」というタンパク質の働きを抑える「C5阻害薬」でした。

  • エクリズマブ(製品名: ソリリス︎)
  • ラブリズマブ(製品名: ユルトミリス︎)

これらの点滴薬の登場で、血管の中で赤血球が壊れる「血管内溶血(IVH)」は劇的に抑えられ、血栓症のリスクも減り、多くの方の予後が改善しました。

しかし、C5阻害薬を使っても、補体系のもう少し上流(C3)で赤血球に付着した補体によって、主に脾臓などで赤血球が壊される「血管外溶血(EVH)」は抑えられません。そのため、C5阻害薬治療中でも、貧血が十分に改善せず、輸血が必要だったり、だるさが続いたりする患者さんが少なからずいらっしゃいました。

そこで、この「血管外溶血」も抑えることを目指して開発されたのが、ペグセタコプラン(製品名: エムパベリ︎)です。週に2回、患者さん自身またはご家族が皮下注射するタイプのお薬です。

ペグセタコプランは、補体系のより上流にある「C3」というタンパク質をターゲットにして、その働きを抑えます。C3は、血管内溶血にも血管外溶血にも関わる重要なポイントなので、ここを抑えることで、両方の溶血を効果的にブロックすることが期待されます。

C5阻害薬(エクリズマブ)で治療しても貧血が続いていた患者さんを対象に行われたPEGASUS試験では、ペグセタコプランはエクリズマブと比較して、ヘモグロビン値をより高く改善させ、輸血を不要にし、倦怠感を改善させるなど、優れた効果を示すことが証明されました。

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PEGASUS試験全体では素晴らしい結果が出ましたが、「その結果は日本人にも当てはまるの?」という疑問がありました。なぜなら、これまでの研究で、PNHは日本人と欧米人などの非アジア人で、少し病気の特徴(臨床病理学的特徴と言います)が異なると言われているからです。例えば、日本では血栓症の頻度が低い一方で、骨髄の働きが悪くなる(骨髄不全)合併が多い、といった報告があります。

そこで、今回の研究では、PEGASUS試験に参加した日本人患者さん(10名)のデータだけを取り出して、 ペグセタコプラン(製品名:エムパベリ︎)の有効性(ヘモグロビン値、輸血状況、溶血のマーカー、QOLなど) そして安全性(副作用など) が、試験に参加した全体の患者さんと比べてどうだったのかを詳しく分析しました。

日本人患者さんにとっても、ペグセタコプランが安全で効果的な治療法であるかを確かめるための、とても重要な分析ですね。

日本人患者さんは10名(ペグセタコプラン群5名、エクリズマブ群5名。途中から全員ペグセタコプランへ移行)と少ない人数ではありましたが、結果は非常にポジティブなものでした!

ペグセタコプラン(エムパベリ︎)で治療した日本人患者さんでは、治療開始16週後には、ベースライン(治療前)と比べて 平均でヘモグロビン値が2.4 g/dLも上昇 していました!これは、試験全体の患者さんの上昇幅(平均2.37 g/dL)と同程度の結果です。 しかも、その効果は治療を続けた48週(約1年)後までしっかりと維持されていました。

これも素晴らしい結果です!ペグセタコプラン治療を受けた日本人患者さん10名全員が、治療期間中(48週間)、一度も輸血を必要としませんでした! 治療前はエクリズマブを使っていても貧血で輸血が必要だった方々なので、これは大きな改善ですよね。

赤血球が壊れている(溶血)度合いを示す血液検査のマーカーであるLDH(乳酸脱水素酵素)の値や、未熟な赤血球である網状赤血球の数も、ペグセタコプラン治療によって改善し、その効果は48週後まで維持されていました。これも、試験全体の患者さんと同様の傾向でした。

患者さん自身が評価する倦怠感のスコア(FACIT-Fatigueスコア)も、ペグセタコプラン治療によって改善する傾向が見られました。QOL全般のスコア(LASA、EORTC QLQ-C30)も、ベースラインの値は日本人患者さんの方がやや高めでしたが、治療による改善傾向は全体集団と同様に見られました。

副作用の出方についても、日本人患者さんで特別に問題となるような点は見られませんでした。全体として、これまでのペグセタコプランの報告と同様の安全性プロファイルでした。

日本人患者さん(10名)におけるペグセタコプラン(製品名:エムパベリ︎)の安全性について、もう少し詳しく見てみましょう。

  • 注射部位反応: 日本人患者さんで最も多く報告された副作用は、注射した場所の反応(赤み、腫れ、硬くなるなど)でした。全体集団と比べると、日本人患者さんの方が頻度が高い傾向がありましたが(例:注射部位紅斑 全体16% vs 日本人60%)、多くは軽度で、これが原因で治療を中止した方はいませんでした。体の大きさ(BMI)などが関係している可能性も考えられます。
  • 下痢: 10人中2人で見られました。
  • 溶血: 全体集団では、治療中に赤血球が壊れてしまう「溶血」が副作用として報告されましたが、今回の日本人患者さん(10名)では報告されませんでした
  • 重篤な副作用: 日本人患者さんでは、治療とは関連がないとされる重篤な副作用(細菌感染症、胃腸炎)が2例報告されました。
  • 治療中止・死亡: 日本人患者さんでは、副作用による治療中止や死亡例はありませんでした。
  • 感染症(特に髄膜炎菌): ペグセタコプランは補体(C3)を抑えるため、特定の細菌(特に髄膜炎菌)に対する抵抗力が弱くなります。そのため、治療開始前に髄膜炎菌ワクチンを接種することが必須であり、治療中も感染症には十分な注意が必要です。今回の試験では、日本人患者さん、全体集団ともに髄膜炎菌感染症の報告はありませんでした。
  • 血栓症: PNHでは血栓症のリスクが高いですが、今回の試験では日本人患者さんでの血栓症の報告はありませんでした(全体集団では2例報告)。

全体として、日本人患者さんにおいても、ペグセタコプランは、注意深く管理すれば安全に使うことができるお薬であると考えられます。

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今回のPEGASUS試験の日本人サブグループ解析の結果は、新しいC3阻害薬であるペグセタコプラン(製品名:エムパベリ︎)が、私たち日本人PNH患者さんに対しても、世界の患者さんと同様に、有効で安全な治療選択肢であることを示してくれました。

これまでC5阻害薬(ソリリス︎やユルトミリス︎)を使っていても、なかなか貧血が良くならなかったり、だるさが取れなかったりして悩んでいた患者さんにとって、血管内溶血だけでなく血管外溶血も抑えることができるペグセタコプラン(エムパベリ︎)は、ヘモグロビン値を改善させ、輸血を不要にし、そしてQOL(生活の質)を高めるための、本当に大きな希望となるお薬ですね。

注射部位の反応が少し気になるかもしれませんが、多くは軽度で対応可能とのこと。それ以上に、貧血や倦怠感から解放されるメリットは大きいのではないでしょうか。

PNHの治療は、このペグセタコプラン(エムパベリ︎)の登場によって、さらに個別化が進んでいきます。ご自身の症状や血液データ、生活スタイルに合わせて、どの治療法が最適なのか、担当の先生とじっくり相談してみてくださいね。

大変な病気と向き合う毎日だと思いますが、治療法は確実に進歩しています。私たち看護師も、皆さんの治療と生活を、心を込めてサポートさせていただきます!

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この記事は、医学論文の最新情報を分かりやすくお伝えするために作成しました。

医学的なアドバイスをするものではありませんし、特定の治療法をお勧めするものでもありません。治療に関する最終的な決定は、必ず担当の医師とよくご相談の上でなさってくださいね!

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